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伸ばされた手が背中に触れた途端、僕の肩は不自然に揺れた。
そんな変化をいち早く察したのか、気付けば綺麗な黒真珠のような瞳がさも愉快そうににぃっと細められたとこだった。


「お兄さん。前も思ったんだけどちょっと敏感過ぎやしないかい」

「…ひっ」

「背中撫でられただけでびくびくしちゃって」


冗談っぽく茶化しながら顔が近づいてきて、、


「可愛いー」


唇が一瞬だけ触れる。

触れた唇が離れていくとき、僕の髪の毛を一束掴んでいったけど、すぐに滑り落ちてしまう。
そのまま何も言わずに見つめてくるので、僕も何も言わずに見つめ返した。

何か言いたそうなのに何も言わないでいる英君の目は優しそうに眇められている。


「あー、……もう行くね」


そう言って僕の体を退け、ぱたぱたと制服に付いた埃を払う。
そして起きあがることもせず見上げている僕を見て、「うん、そうだね」と言った。

一人で考え込んで一人で答えをだしたみたいだった英君の独り言を聞いて、ますます訳がわからなくなった僕はとりあえず首を捻ってその続きを待つ。

「これアドレスと電話番号。今度は無くさないでね」

「え」

「本当は無理矢理ケータイ奪ってアドレス交換しちゃいたいくらいだけど。余計拒否反応強くなりそうだし。無理矢理は嫌なんだよね」


英君のこんな真面目な顔初めて見たような気がする。

この短時間の内に彼の中でいったい何があったんだろう。

目の前に居たくせに僕にはそれがわからない。

英君が僕の携帯電話を奪ってまで番号を手に入れたいと思う気持ちはもっとわからないけど、それを思いとどまり、尚且つこの間と同じようにアドレスを書いた紙を渡そうと思った経緯を知りたかった。

だって僕は一度拒絶しているのに。


「ど、…して」

「え、なに?。ごめん良く聞こえなかったや」


緊張しているせいで口の中に溜まった唾液を飲み込む。

喉がごくりと鳴った。


「どうしてそんなに、僕に構うの」


純粋な疑問を投げかけただけだったのに、英君は何でか鳩が豆鉄砲喰らったように目を見開いている。


「なんで…?なんで?う〜ん…」


今度は腕組みをして首を捻ったり、顎に手を当てて天井を仰ぎ見たりしている。

英くんは一通りうんうんした後僕の腕を掴んで立ち上がらせてくれた。


「うーんと、、」


おまけに服の埃まで払ってくれる。



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