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ノートやプリント類を受け取り、結構な高さと重さのあるそれを顎で抑えながら職員室を出れば、廊下で談笑する生徒の姿がちらほらと見えた。

がやがやと騒がしい廊下を歩く。

この学園へ来て一番驚いたのは、マスカラや口紅をつけている子がいる事。

垣間見える仕草はどことなく男に媚びを売る女のそれに酷似していて、違和感以外の何者でも無かった。

一律してそういう子達はスカートを履いていない事が不思議に思えるほど可愛らしい顔つきをしていたのでそのうち慣れたけど。


今でこそ僕に向けられる視線は少なくなったけど、それでも学生の中に混じって廊下を歩くのはとっても緊張する。
初勤務の日職員室に挨拶に行く為に歩いた廊下での見せ物の如く無遠慮な視線をそこかしこから向けられ、消えて無くなりたくなる程困窮したのは記憶に新しい。
学生服を着てる訳でもスーツを着ている訳でも無い僕の姿はこの学園の中では異物だ。
肩を縮めて俯きながら歩くのは今も変わらない。

新任の先生や教育実習生ならば生徒達の前で紹介する場を設けられるんだろうけど、なんてったって僕は用務員だ。
何も知らない生徒からしたら不審人物にでも見えたのかもしれない。


「…ふう」


ようやく数学準備室に到着し両手で抱えていたノートやプリント達をデスクの上に乗せると、ふわりと用紙の間から独特な藁の臭いがした。

この二週間の間に体が一回り引き締まったように感じる。
建物の中や広い敷地内を早歩きで往復したからその効果だろう。

負荷をかけられてパンパンになった肩の筋肉を解すように手を当て、一息吐くと後ろで何か気配を感じぴたりと動きを止める。


「見ぃーつけた」


背後でガラリと扉が閉まる音が聞こえ慌てて振り向く。


「!…は、英くん」

「やだなあ〜。キイチって呼んでよ。僕と藍沢さんの仲じゃない」


そこにはにこにこと笑顔を浮かべる英君が立っていた。


「や、…でも、、」

「いいから」

「……っ…」

「はやく」

「……………き、い…ちく…」

「はは、声ちっちゃ!」


雑然と物が置かれているからなのか外は快晴なのに露ほどしか入って来ない日の光をこれほど恋しいと思ったことは無い。

電気を付けていない薄暗い室内にガチャリと鉄がぶつかる音が響いた。


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