お仕事見習い中
瞬く間に二週間が過ぎた。
初日の騒がしさが嘘みたいに穏やかな日々が続き、あの三人もあれっきり音沙汰も無い。
生徒とのあんな不祥事がもしバレでもしたらあっと言う間に僕は無職に逆戻りだ。
…どうか若気の至りでありますように。
それよりも気になるのは早川と呼ばれていたあの人だ。
教師と言う立場上見逃してくれなさそうなのに、二週間たっても僕の元に解雇と言う名の最後通牒はまだ来ていなかった。
他の先生方にも知られたら万が一バレるやもしれないので、こっそりと口止めしたいのにちっとも見つからない。
早く見つけてあの時の事は内緒にしてくださいって頼むんだ。
そうすれば、このままここで働いていられる。
まだたった二週間しか経ってないけど、そう思うくらいこの仕事は僕の性に合っていた。
資料を読んだ時に思った膨大な仕事量もいざやってみれば決して出来ない事はなく、忙しさの中に充実感を見つけ始めている。
校舎内の清掃はプロの業者が入り、花壇や植木の手入れは専門の庭師が2日に一回は来てくれるし、僕はそれを助言を貰いながらも外観を崩さないように清掃する程度だった。
業務の中の項目にも含まれる、来訪者の受付はまだやったことが無いけれど、榎本さんが丁寧に教えてくれた。
あとは先生達の授業の準備の手伝いと、親達から送られてくる荷物の仕分けや、定期的に送られてくる宅急便を本人に手渡しすることだけだった。
「これ、数学準備室に運んでおいてくれる?」
「はい」
「藍沢君、いつもすまないね。君が来てから随分仕事がやりやすくなったよ」
「は…いいえ」
この人は数学教師の三枝司(さえぐさ つかさ)先生。
なんと初日に会ったあの花菱充君の実のお兄さんなんだって。
なんだか複雑な家の事情で名字は違うけど、ちゃんと血は繋がっているんだそうな。
お手伝いしていた時に花菱君と会った事を話題に出した僕に「みんな知っていることだからね」と、こっそり教えてくれた。
三枝先生は花菱くんよりも更に背が高く、黒髪で眼鏡を掛けている以外は全く違う印象だった。
花のかんばせのような柔らかい雰囲気の花菱くんに比べ、三枝先生は知的でストイックな魅力の持ち主だった。
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