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「こ、ここの生徒ではないよね?教育生の話もき、聞いていないし…」


見るからに話すのが不得意そうな彼に、妙な親近感を覚えた。


「今日から用務員として働くことになった藍沢と言います。よ、よろしくお願いします」

「――用務員…?そ、そうか……君が」


早川は用務員と聞いた瞬間、なんとも言えない冷たい視線を僕に向けた気がした。
それが見えたのは一瞬で、すぐに眼鏡のフレームが押し上げられて、見えなくなってしまったけれど。


「?」

「い、いや…なんでもない。君も早く自室に帰りたまえ」

「…失礼します」


食堂に続く扉を開けると、金属特有の重厚な擦過音が階段の下まで響いた。


(まだ食堂やってんのかな…)


呑気にそんなことを考えていた僕の背中に送られてた視線に込められた感情なんて、僕は知る由もなかった――。





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学生寮と社員寮も兼ねた建物の一階には24時間稼働している大型スーパー並みの広さのコンビニが設置されていて、日用品はもちろん生鮮食品や衣類や寝具の類まですべてが揃っている。
どう見積もっても利益なんか出なさそうな品揃えなのに鮮度が保たれているのは、この学園にどれだけの金が有り余っているのかをありありと示していた。

そんな途轍もない広さを誇る建物の中で、半分迷子になりながらお弁当を探す。
そう、お察しの通りあの後まっすぐに向かった食堂はすでに閉まっていたのだ。

仕方なしにこのコンビニに足を踏み入れた僕は、今までの生活とはかけ離れた現状に目を白黒させた。


(…早く帰ってあの無駄に広い湯船に浸かりたい)


本当は食欲なんて無いし、もう面倒なことなんて何も考えないで泥のように眠ってしまいたい。
でも明日の事を考えるとしっかりと食事くらいは取っておかなければなんだかやり過ごせないような気がした。

一日のうちにあまりにたくさんの事が起きたせいで、すでに胃はキリキリと悲鳴を上げている。

ずらりと並んだ弁当を目の前に僕はポケットに入れたはずのカードキーを取りだそうとした。


「……あ?…あ、あれ?」


ポケットに入れておいたはずだったカードキーが無い。


「う、嘘…」

沢山付いてるつなぎのポケットを探し尽くした後、ちらほらと居る数人の生徒たちの視線も気にせず、その場にしゃがみ込んで両手で顔を覆った。





来た道を戻り廊下やエレベータの中、それからあの非常階段も探したけれど見つからない。

その間も胃の痛みは止まず、眠気まで襲ってくる始末。

さんざん探し回った割に成果は残せず、結局寮官室の原さんにスペアキーを借りに行った。

その間に夕飯を買いに行く気力はすっかり無くなって、へろへろになりながら部屋に帰ってきたのは日付が変わる頃だった。


赤井達に体をいじくられた後だからせめてシャワーを浴びなくちゃと思ったけど、なんだかもう全てがメンドクサい。

僕は迷わずふかふかのベッドにダイブした。


今日一日の出来事が、これからの僕の人生の不運の予兆のような気がした。





―続く―



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