恥の上塗り

「なるほど。痛いのが気持ち良いから体は反応するけど、自分が自分じゃなくなっちまう気がして怖い、と」

「………はい」


またしても腰が立たなくなった僕は、電子レンジまで使って蒸しタオルを作ってくれた榎本さんに体の隅まで綺麗に拭いてもらうという生き恥を晒したついでになんと、自分の性癖まで暴露していた。
これはなんかもう深夜の通販番組の『大特価!○○がメーカー希望小売り価格35000円のところ29800円!!』を見て「お、安いじゃん」って勢いで買った後で何でこんなの買っちゃったんだって気付くパターンのやつだ。
尋常じゃないくらい恥ずかしい姿をすでに晒したからといって、次に晒す恥が軽減されるわけではないのに。

もう榎本さんの顔どころか、足の先だって見るのが辛い。


「あ、の、お、お茶、…入れます」


おまけに気まずさから逃げるように立ち上がれば、盛大に顔面を強打。

付き添われながらようやくキッチンにたどり着くと、インスタントのコーヒーしか無いことに気付いて僕はがっくりと肩を落とした。
豆から淹れる高いコーヒーしか飲まなそうな榎本さんに、インスタントなんて出せない。
そんな事を考えて固まりつつもさりげなく僕の腰に腕を回している榎本さんの様子を伺うと、耳元で「これで良いっす」と言われた。

心の底からTシャツを着ておいて良かったと思った。
腰に回されてる手が熱い。
いきなり至近距離から入ってきた美声に驚いたのと、自分の考えがすっかり見透かされていた事に尋常じゃないくらいの熱が顔を中心に熱が集まり、もう僕なんか溶けて無くなってしまえば良いと思った。

きっとこの青い瞳には透視能力がついていて、分からないことなんて何も無いんだ。


結局、ふらふらしながらヤカンに水を入れようとしたところで、見かねた榎本さんにソファーへと強制送還された。
赤くなったり青くなったりをもの凄い頻度で繰り返した結果、自分のキャパを遙かに越え思考停止してしまった頭をどうにかしようと、ソファーの上で抱え込んだ膝に額をぐりぐりと押しつけた。

顔が熱い。

穴があったら入りたい。
むしろ自分で掘ってでも入りたい。

みるみる体温が上がっていくのを誤魔化すように頭を掻き毟っていたら、腰掛けていたソファーがもう一人分の体重を受け止め沈んだ。


「何やってんですか。コーヒー入りましたよ」


テーブルにマグカップが置かれる。


「……すみません」


僕の顔がなんで真っ赤なのかとか、どうして膝を抱えてるのかとか、きっと全部バレてる。

あんな事までさせてしまって只々申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

隣に座ってあり得ない目力で僕の顔をじっと見ながらコーヒーを飲んでいる榎本さんには直接言えないけど、涙目になりながら僕は頭の中で何度も何度も謝った。


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