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誰が見てもキレる寸前なのに、桃色に色づいたほっぺを人差し指で掻きながらへへっと照れ笑いしている栗栖君はかなり大物だと思う。


「誰としゃべってるか分かってる?敬語使わないでいきなり友達宣言とか常識外れもいいとこでしょ。それに俺、うるさい子嫌いなんだよね。特に君みたいな空気も読まないで一人で一方的にしゃべり続けるタイプなんか論外だし。もう生理的に受け付けないレベルなんだよね」


怒っていても男前な理事長様の物怖じしないでバシッと言い切る姿にはもう感動しかない。
一気に畳み掛けられ、さすがの来栖くんも黙るだろうと思いきや、


「なっ!なんでそんな事いうんだよっ!理事長だからって差別はいけないんだぞ!お前最低だな!!」


負けじと言い返していた。さすがです。
僕は彼の振り切った横暴さに拍手を贈りたくなった。


「耳元で叫ばないでくれる?ここの生徒になる以上は敬語くらい使えるようになって貰わないとね。うちの編入試験レベル低いと思われたら困るからさ」




―――ポーン



ちょうどその時エレベーターがこの階に到着したことを知らせる電子音が鳴り響いた。
ゆっくりと降りてきたその人は2人が自分に気付いてないことを確認してから、僕に近づき、視線を移し口元に人差し指を立てて、綺麗な笑みを浮かべた。

ゆっくりとした足取りで近づいてくる彼はどうやらここの在校生徒らしい。
某有名デザイナーにデザインしてもらったと言うその制服姿は、デザインが良いのか、オーダメイドだからか、はたまたモデルが良いのか、やたらと格好いい。
彼は、さらさらとした黒髪が印象的な、穏やかな笑みを浮かべる品のある美形だった。
すっきりとした一重瞼のクールな目元を飾るノーフレームの眼鏡がまた魅力を引き立てていた。

うっかり見とれているといつの間にか近づかれていて「大丈夫?」と耳元で囁かれた。

視界の端に黒髪が揺れるのが見える。
心臓がドクリと跳ねた。


(わ、結構背高いんだ)


なんかいい匂いもして、慣れない距離にドキドキしていると、濃い黒紫の瞳に覗き込まれる。
顔に集まった熱を逃がすように必死に頷くとよかったといって離れていった。

その存在に気付いていない二人の様子を見ている彼は腕を組んで呆れたようにため息をついていた。

栗栖くんの真後ろに立ってるのに気づかないのはきっと彼の声が大きすぎるせいだ。


「なんだよそれっ!友達に対して敬語なんて使う方がオカシイし、頭の良し悪しで人を評価するなんて間違ってる!!!!」

「もー、語尾のビックリマークもどうにかなんないの?もうそろそろ耳鳴りおこしそうなんだけど」

「なっ!!なんだよその言い方!!」


永遠と続きそうな言い合いを一部始終を見守っていた彼は、涼しげな目元と知的っぽい魅力を一層引き立たせる縁なし眼鏡を人差し指でくぃっと押し上げ小さく溜め息をついてから口を開いた。


「……やれやれ。いつまで待っていても来ないから、様子を見に来てみれば…理事長までいらっしゃるとはね。あなた方一体何やっているんですか」

「…え?あ!おおー!なんだ!!花菱くんじゃないの。ずいぶん遅かったねぇ」


待ってましたとばかりにテンションが上がりニコニコし始めた理事長に僕はホッとした。

だってさっきの理事長はなんだか少し怖かったし。
あの美味しい紅茶を入れてくれた人とはとても思えないような形相をしてたから。

一気に和んだ空気に、僕はホッと胸を撫で下ろした。


「遅いって…。私は理事長に寮の前で待っているようにと言われたので30分も前から「おい!お前誰だよ!!」

「は?」

「俺の名前は栗栖明!アキラって呼べよな!!」


それから栗栖くんは友達100人出来るかなってな具合に彼の名前を聞き出し、自分の名前を呼ぶように強制した後例のごとく「俺達もう友達だよな!」と締めくくった。

ちなみに彼の名前は副生徒会長の花菱 充(ハナビシ ミツル)くん。
理事長さんが耳打ちで教えてくれました。

ぐいぐい攻めてくる栗栖くんに戸惑っているのか左右に揺れる瞳が可哀想なほど主張してる。


「オトモダチになれて良かったね!花菱くんには悪いけど俺これから理事会があるから来栖くんに説明してる暇ないんだよ」

「修司!アキラって呼べって言ってるだろ!!」

「えっ!?ちょ、困ります、私にだって仕事が…」

「はい!これが資料だから。じゃあ花菱くん、よろしく頼むよ!」

「オイ!!話聞けってば!!!!」

「ちょっ!理事長っ!!」


上から、理事長→栗栖君→花菱君→理事長→栗栖君→花菱君の順で繰り広げられた会話でわかる通り、来栖くんはもはや空気だ。

ぐいぐいとエレベーターに押し込み、あれよあれよと言う間にボタンを押して、理事長は半強制的に扉を閉めてしまった。
ワーワー叫んでる栗栖くんはともかく、半ば巻き込まれた形の花菱くんは可哀想だなぁ、と思った。



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