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「い、たい」

「あ!俺のことはアキラで良いからな先生!」

「あ…っ、ちがっ、せんせじゃ、な「もう友達だから敬語とか使わなくて良いよな!良かったぁ俺敬語苦手なんだよハハハ!!!!」

「ちょ、聞いて…っ」


バサ…ッ


背中をバシバシ叩かれる痛みに限界を感じて、とうとう庇おうと伸ばした手からさっき理事長にもらった資料が音をたてて落ちた。


「ん?なんだこれ……?」

「あっ」

「ようむいん……?」


床に落ちた黄色い表紙にはくっきりはっきり『用務員用』と書いてあって、それを見た栗栖君はぴたりと動かなくなった。
そしてさっきまでの、明るくて人懐こい栗栖明とはまるで違う、ワントーン下がった声で呟いた。


「お前、用務員なのか?」


マリモ頭のせいで見えなかった栗栖くんの目が見えて、僕がコクリと頷くとそのまん丸い瞳が細く眇められ怒りを露わにした。


「ーーッ!」


ドンッ!!


「嘘付くなんて最低だぞ!謝れよ!!」


目にも留まらぬ速さで左腕と胸ぐらを掴まれ、壁に叩きつけらる。
思わず目を瞑った僕の耳に聞こえたのは、ヒステリックな金切り声だ。


「それにお前あんま喋んねえしなんなんだよ!良い年こいて人見知りですなんて通用しねえぞ!悪い事したら謝るのが当たり前だろ!!」

「…っ!んぐ…っ」


急変した彼に訳が分からず、怒らせてしまったショックと恐怖で体が震えてしまいます。
高校生に怒鳴られたくらいで震えるとか全く笑える。

絞り出したはずの声は栗栖くんの力の入った手に喉を締め上げられて耳に届くことなく宙に消えた。


く、…くるしいよ…。


「どうせ先生って嘘ついたのも生徒にちやほやされたいからなんだろ!?俺そうゆうやついっちばん嫌いなんだよ!!」


く、…くるしいっ。
どうして怒ってるんだろう。
何かいけなかったの。

そう言いたかったけど、栗栖くんは僕の言葉なんて聞こうともしてないみたい。
捻り上げてくる腕の痛みと胸ぐらの圧力が更に増した。


「だいたい俺が話しかけてやってるって言うのに…フガッ」

「はぁい、すとーっぷ!」


聞き覚えのある声と一緒に栗栖君が離れていき、ようやく肺に入れることができた空気を一気に吸い込んだ。

「…かはっ…ごほっごほっ」

腕の痛みからも解放されて、変に高ぶり、不規則な律動を繰り返してる心臓と、震える足をどうにか落ち着かせようと深呼吸を繰り返えした。


「な、何するんだよ!俺は今こいつと話して―」

「あのねぇ。さっきから見てたけど、君のは会話って言わないの。一方的に喋りすぎて樹くん可哀想だったよ?」


助けてくれたのは理事長は、僕があんなにもがいても振り解けなかった栗栖くんの腕を軽々と拘束している。
ずいぶんと背が高いのにひ弱そうに見えないのはそれに見合う筋肉が必要で、スーツの上からでもわかる厚い胸板はそれを物語っていた。

…って、さっきから見てたなら何でもっと早く助けてくれなかったの。


「う……もうっ、いいから離せってばッ!」

「はいはい。もう何もしないって約束するんなら良いよ」

「しねぇよ!」


しぶしぶ拘束を解いた理事長さんと来栖くんを伺うように見ていたら理事長さんもこっちを見ていてバチリと視線がぶつかった。


「樹くんだいじょ「おおおお前誰だょっ!」

「あ゙?」


理事長の言葉は例のように栗栖君のおっきな声で遮られ、眉間には不愉快さを示すように、ぐぐっと見事な皺がくっきりと寄った。
それと対照的に赤く頬を染めながらしゃべりかける栗栖君。
なんだか乙女のような彼の反応に、居たたまれなくなって慌てて視線を落すと変色した手が見えた。


(あ、やっぱりもう赤紫色になってきてる。元々色素薄いから跡になりやすいんだよね)


「おい!聞いてんのかよ!!」

「あー…はいはい。今学期から転入予定の栗栖くんね。俺はここの理事長の朝比奈修司だよ」

「修司か、良い名前だな!俺のことはアキラって呼べよな!俺達もう友達だろ!?」

「…………は?」


理事長の眉間に寄った皺がもっと深くなって、こめかみに浮かび上がった血管が痙攣してる。



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