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「いやぁ、君が引き受けてくれて助かったよ。用務員さん探してたけど、こんな悪辣な条件で引き受けてくれる物好きなんて居ないだろうなーって思ってたんだ。指導者が居ないのは少々キツいだろうけど、そういう訳だから何とか頑張ってみてね。ちなみに前の業者さんにクレーム付けて辞めさせたのは保護者側なんだから多少仕事のクオリティ落ちてもお咎めなしだから安心して」

「…は、はい」


できる限り一生懸命勤めさせていただきますと頭を下げたらそんなにかしこまらなくても、と笑われてしまった。

むぅ、格好いい。
照れ隠しに厚さ10センチのマニュアルを何枚かめくった。

その中に書いてあった主な業務はこうだ。


1.環境整備に関する業務。
@校舎内外の清掃及び整備に関する作業。
A樹木、花壇、除草等の手入れに関する作業。
B暖冷房、器具、燃料に関する作業。
C施設、設備の補修及び整備の作業。
D飼育動植物等教材関係の整備協力に関する作業。

2.管理運営に関する業務。
@文書送達受領等連絡に関する業務。
A外来者の受付、その他連絡に関する業務。
B学校諸行事の準備並びに整備に関する作業。
C補修工具等の備品の整備及び保管。
3.その他。


それは長々と、詳しく、とても一度読んだだけでは容易には理解し難い形容で、膨大な量の雑務が記してあった。


「大丈夫そう?」

「…やってみ、ます」


とりあえずやってみないと何とも言えないのである。


「うん。よろしく頼むよ」


にこ、と笑って紅茶を一口飲んだ理事長を見て、そういえば自分も喉がカラカラだった事に気づき、カップに口付ける。
緊張しすぎて水分がなくなっていた口に少し温度の下がった紅茶は飲むのに丁度良い温度だった。


「う、わぁ…おいしいなあ…」


お腹の中まで行き渡る暖かな良い香りにホッと緊張が緩んだのか、思わず発してしまった一言に慌てて口を抑えた。

(上司にタメ口って…!何言ってんだ僕っ)


「いいのいいの」

「す、……すみません」


平謝りする僕に『嬉しいよ、良ければまた飲みにおいで』とまで言ってくれた。

それが社交辞令とわかっていても物凄く嬉しくて、頬が緩んだ。


「あ、…ありが、と、ございます」

「ぶッ!!」


まるで霧吹きのように何故か突然紅茶を噴き出した理事長はあわわわっと慌ててナプキンでテーブルやティーカップを拭いている。

もうそんなに熱くないのに、どうしたんだろ。

僕は理事長の長くて逞しい腕がわたわたと動く様子を、頭に何個もハテナマークを浮かべながら見つめた。
ただ単におかしな器官に入っちゃったと言うよりは驚いて思わず噴き出したっていう方がしっくりくる。


さっき僕はにこ、と笑っていたと思う、たぶん。

その時理事長は紅茶を飲もうとカップを口元に近づけ、そして僕が微笑んだ瞬間に紅茶を噴き出した。

て、ことは…僕が原因…?


「ぼ、僕の顔…なんか変でした、か?」

「は?」

「だって僕の…」

「ちっ、ちがうよ!ちがうからね!!」


理事長はきっと優しいからそんな事言ってくれるんだと思う。

変な顔の癖に慣れない笑顔なんか作ってごめんなさい、とおでこをテーブルにくっつけて謝ると『違うから!俺が!俺が変態なだけだから!!ギャップに萌え〜ってしちゃっただけだから!!』と両肩を掴んで頭を上げさせられた。
理事長が叫んでいた言葉の意味はわからなかったけど、僕のことを思って誤魔化してくれるような凄く優しい人だって事はわかった。


「てか樹くんさ、俺はノンケだから大丈夫だけど、あんまりそうやってじーっと人の目見ない方がいいよ?つるんと剥かれてぱっくんちょされちゃうからさ」

「…?」




…やっぱり、理事長の言うことは難しい。






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