理事室にて
理事長は掘りの深いくっきり二重と厚みのある唇が男臭さを感じさせるエキゾチック系のイケメンだった。
高級そうなタイトなオシャレスーツにノーネクタイ姿が肉食獣みたいな魅力を更に引き立てて、机に寄りかりタバコに火を付ける姿は雑誌に載ってるモデルみたいだ。
「はじめまして樹くん。長旅ご苦労さま。疲れたでしょ?今お茶出すから、そこに座って」
爽やかな笑顔のオプション付きでソファーに通してくれた理事長は想像していたそれとだいぶ違った。
もっといつも眉間にシワがよってるような神経質っぽい人かと思ってたから。
ありがとうございます、と頭を下げてソファーに腰掛けると、とっても座り心地が良くて緊張して震えていた足を労ってくれように感じる。
僕は詰めていた息を吐きだした。
少しして、上品なソーサー片手にアールグレイで良かった?と聞く理事長。
恐縮して、ありがとうございますと深々と頭を下げる。
もうタバコは吸ってなかった。
これだけ立派な立場の人には秘書みたいな人がいつもついてるイメージがあって、何もしないもんだと思っていたけどどうやら例外もあるらしい。
理事長が直々に入れてくれた紅茶からする上質な香りが鼻腔を刺激する。
「さてと、早速本題なんだけど…」
向かいのソファーに座った理事長はそう切り出すと、僕のこれからの仕事面で命運をわけるような衝撃的な事実が判明した。
どうやら今まで個々にプロの業者が入って作業をしていたのだけどたくさんの人が出入りすることにセキュリティー的にどうなんだと保護者側からクレームが出てしまって、高度な技術を必要とする仕事以外は業務を一本化することになったのだそうだ。
契約期間が昨日までだったので引き継ぎは特になし、わからない事はこのマニュアルを読んでねと一冊の分厚い冊子を渡されただけだった。
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