冒頭


いきなりですが、有名私立高校の用務員として、この度見事就職が決まりました。

今日はその黒曜(コクヨウ)高校に初出勤致します。

大学も出ていない僕が、22歳にもなってなぜ今更就職できたのかを説明しよう。

高校を卒業後、すぐに小さな下請け会社に就職したが、その約2年後、不況の煽りを受けて見事に倒産。
不景気が拍車をかけて再就職は困難を極めた。
ハローワークに何度も通い、履歴書を何度も書き直し、動機と戦いながら面接結果を待つ日々……。
そんな毎日に疲れきった頃、古い知人から「用務員とかやってみない?」と朗報が舞いこんで来たという訳。

山奥にある為、住み込みは必須だが寮にきちんとした部屋を用意して貰えて、しかも家賃・光熱費・食費がタダと聞いた僕は、もちろん二つ返事でOKした。




そして今、理事室の扉の前に立っている。

ご挨拶と軽く仕事内容の説明をしたいという事で伺ったのだが、何を隠そう僕は今、足の震えが収まらない程すっごく緊張している。

家を出てくるとき母さんに、ここの理事長は若いけどやり手で、人の好き嫌いが激しいから気をつけるのよって何度も言って聞かされたから理事室に着くまでの間、これでもかってくらい念入りに身だしなみを確認する。

重そうで高級そうな扉はエベレストのようにそびえ、まるで僕の存在を拒んでいるかように見える。
扉には『理事室』と書かれた煌びやかな装飾が施されたプレートが、ギラギラと誇らしげに輝いているが、神々しすぎてもはや僕の目には何も見えない。

ゴクリ、と生唾を飲み込んでから深く吸い込んだ息をゆっくり吐き、頬を叩いて気合いを入れる。痛い。

意を決して震える手で2回ノックすると、すぐに『どうぞ』と声がして、僕は震える膝を叱咤して中に踏み込んだ。

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