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「菜音ちゃん、美味しい?」
『おいしー、すっごく美味しい!』


近くにあったベンチに座って、幸せを感じながらクレープを食べる。今この瞬間にだけ折原くんに感謝しようと思うよ


「菜音ちゃん」
『んー?』
「俺さ、菜音ちゃんのこと好き」
『私はクレープが好き』


半分くらいになって皮に比べて中身が少し減ってきた。…食べ方ちょっとミスったな。ここは我慢して皮を多目に食べて、と


「菜音ちゃん、それ意味違うんだけど」


折原くんの声色が若干変わったけどそんなの気にしてられない。今一番重要なのはどれだけバランスを取り戻せるかだけ


『全人類を愛してる折原くんの好きに合わせて返事をしたまでだよ』
「俺、菜音ちゃんにそんなこと言ったっけ?」
『新羅から聞いた〜』
「…新羅、ね」


よし、バランスは完璧になった。満足感を感じながら再び新鮮な気分でかぶりつく


「菜音ちゃん」
『ん?あ…、』


いきなり遠退いていく私の現在の宝、クレープ。クレープを掴んでいるのは折原くんの手


『返して、あとちょっとで食べ終わるから』


クレープに向けて手を伸ばすけれど、あぁかなしかや身長差という名の壁によって私の手はクレープに掠りもしない

目の前にあるのに、今までこの口の中で私に幸せを与えてくれたのに、なんて悲しいことなんでしょう

ちらりと折原くんを見上げてみたら、折原くんはクレープを手にできない私をすごく楽しそうに見下ろしている。

なにこのひときちく。


『折原くん、返して?』
「菜音ちゃんがクレープより俺が好きって言ってくれたら返してあげる」


にこっと笑ってクレープを自分の口元に持っていく折原くん。


『え、なにそれ難問すぎる』
「え、俺クレープ以下?」
『え、違うよ。格が』
「え、ちょっとひどくない?」
『うん、だから返して』
「うん、返したくなくなった」


だから、食べちゃうね。折原くんはそう言うと、私の愛しの抹茶クレープの残りを頬張った。…はっ?何してんのこいつバカなの、しぬの?


「ごちそうさま」


ウザったいくらいの爽やかな笑顔を浮かべた折原くんのお腹に右ストレートをぶちこんだとしても、私は悪くなんてないよね。



201201004



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