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鬼ごっこのあと伊織は、自分が女だと言うことを自分から言うようになっていた。
伊織に理由を問うと『男だと思われるでしょ?ほら僕モテるから』と冗談半分で答えられた。
そんなわけで、伊織が女だと言うことは学園内で徐々に知れ渡っているのだが、それを知らない一部の女子が伊織にアタックをしている。ついでに言えば知ってる奴でさえもアタックしている。
女子ってすげーな、と単純に思った。
『へーすけ!一緒にご飯食べよー?』
少し離れたところから腕をぶんぶん振って俺を呼ぶ伊織の姿に少しだけ笑ってしまいそうになる
女子な間では紳士だの、王子様だの言われてるアイツだけど、結局は俺と同じだから
「おー、今行く!!」
『早くしないと平助の前で千鶴にあーんしてもらうからね!』
「はっ!?何言ってんの!?お前!!!!!!」
けたけたと笑いながら走っていく伊織を追いかけながら、こいつは男でも女でもこれからもっと仲良くなっていける気がした
『へーすけ!』
「んだよ、伊織!」
♀♂
「一君はさー、どう思ってるの」
それは休み時間のことだった。総司はいきなりそう俺に聞いていたのは
「どう、とは?」
「ほらー、あの子だよ、あの子。昨日の実は女の子だった子」
「あぁ、あれは驚いた」
あそこまで完璧に男装するなど、大変だろうに…。素晴らしい技術を持っているのだろうと俺は思う。それを総司に伝えると「違うよ」と言われた。…何が違うんだ
「あの子さー、なーんかあると思うんだよね」
「そうか?」
「僕と同じにおいがするんだよ」
「総司と同じ匂い?使っている洗剤が同じなのではないのか」
「そーゆー意味じゃ無いよ」
総司は、はははと笑うと「千鶴ちゃんに会いに行ってくね」と教室から出ていった。
一人になった俺は総司と話していた如月のことについて考えてみた
俺たちから逃げ切るほどの身の軽さ。違和感を持たせない変装のスキル…
「…総司ように遅刻ばかりするような奴でなければいいが……」
俺の呟きは教室の雑踏の中に消えた。