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「伊織ちゃん、あーん」
「伊織ちゃん僕にも一口」
「伊織ちゃん、伊織ちゃん…」
なんか、疲れました。
なんて言うか、沖田先輩の僕に対する構い具合が凄まじい。その度に助けてくれる斎藤先輩にどれだけ感謝していることか
『斎藤先輩、ありがとうございます』
「気にするな。疲れてはいないか」
『今のところは大丈夫です』
「伊織ちゃん。僕にも構ってよ」
どさっと背中に重み。どうやら沖田先輩が僕にのし掛かってきた模様
『はいはーい。沖田先輩あーん』
「あーん」
さっき沖田先輩に買ってもらったたこ焼きを沖田先輩の口に入れる。口の端にソースついてる姿、笑えますな。
「総司。あまり如月にちょっかいばかりだすな。困っているだろう」
「やだ。それに伊織ちゃん困ってないし」
不満そうな顔して僕を膝に乗せて後ろから抱きついてくる沖田先輩。なんか間違ってますけど
「如月。」
『はい?』
呼ばれて斎藤先輩の方を向けば、ハンカチで口元を拭われた。
「ソースがついていた。」
『え…、うわぁ、斎藤先輩ありがとうございます』
「気にするな」
斎藤先輩には『ありがとう』を言いまくってるような気がしてきた。なんて言うか斎藤先輩って、
『お母さんみたい』
「なんだと」
『あ、えーっと』
素晴らしいほどに素早い反応を見せてくれた斎藤先輩。男だもんねお母さんみたいって言われたら普通に嫌だよね。やらかしたわー…
『なんか斎藤先輩って、気配り上手で甘えたくなると言うか、頼りたくなると言うか…』
「じゃあ僕は伊織ちゃんの旦那さんだね」
『いやいや、旦那さんって』
「結婚する?」
『まだいいです。楽しみたい』
沖田先輩の冗談は置いといて、斎藤先輩の方をちら見すれば、なんか震えてる。怒った?怒った?怒りの震え!?
「おい」
いきなり言葉を発した斎藤先輩にちょっとびくっとしたけど、平常心をなんとか保つ
「なに?一君」
問いかけた沖田先輩に、斎藤先輩はカッと目を開いて言った
「うちの娘はまだ嫁になどやらん!」
「……」
『……』
どうしてこうなった。
「総司、大体俺達は高校生だ。結婚するなどと軽い気持ちで言うものではない。しっかりと相手を養う余裕が無くては…」
何故かお説教を始めた斎藤先輩。あの数分の間に彼に何があったのでしょうか
「とりあえず、伊織はまだ嫁にはやらん」
「…一君、伊織ちゃんの何になったの?」
「母親に決まっている」
『…うわぉ』
冗談って怖いなと思いました。まぁ斎藤先輩嫌いじゃないからいいんだけどね。
『…じゃあ、僕仕事あるんでこの辺で』
「えー、もうなの」
「気を付けて行ってこい」
ぶーぶー言ってる沖田先輩とそれを押さえ込む斎藤先輩にバイバイして、僕は後夜祭まで再び働いた。