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『不知火せんぱぁぁぁぁあい!!!!!!』
生徒会室につくと、伊織ちゃんはそう叫びながらソファーで寛いでいた不知火先輩へと飛び付いた。不知火先輩は笑顔で伊織ちゃんを受け止めた。
…どうしよう。状況の判断が出来ない
「おう、伊織じゃねぇか。よく来たな」
『不知火先輩に会うためならどこまでも行きますよ!』
にこにこにこにこ、伊織ちゃんはまるで猫のように不知火先輩に擦り寄り、不知火先輩もそれを受け入れる
誰かどうしてこうなったのかを私に教えてください。
「伊織はあの一件のあと、不知火になついたようですよ」
「!、そ、そうだったんですか…」
いきなり隣に現れた天霧先輩に驚いて声が裏返りそうになった。
…なるほど、不知火先輩は伊織ちゃんに何かした、と……
伊織ちゃんは不知火先輩とひとしきり戯れ合って満足したのか、私の方を向いて言った。
『不知火先輩は僕の兄貴なの!』
「…え?」
ぽかーん、と思わず口が開いてしまう。伊織ちゃん今何て言ったの?兄貴?兄貴って言ったよね。不知火先輩が伊織ちゃんのお兄さん…!?
『まぁ、そう僕が勝手に思い込んでるだけなんだけどねー』
「そんなことねぇさ。俺だって伊織のことは弟のような妹と思ってるぜ?」
『本当に!?うわー、嬉しい!』
その様子に私は呆然とした。何て言うか、その…。すごくいちゃついてるように見えるから…
「あの2人は兄弟ごっこを楽しんでいるだけです。心配は不要ですよ」
「…はい」
「それよりも何か用事があったのではありませんか?」
「あ、書類を届けに来たんです…」
「ありがたい。ところでその書類は」
「…伊織ちゃんが持ってます」
あんなに楽しそうなのに、声かけるのは良くないよね…。それにあんな風に戯れ合ってたら書類だって…
ちらりと伊織ちゃんの手元を見て驚く。書類はぐしゃぐしゃにならずに合ったから
「不知火、伊織。そろそろお止めなさい。伊織は書類を届けに来たのでしょう?」
『あ、そうでした』
伊織ちゃんは天霧先輩の一言でぴょいっと不知火先輩の膝から降りると、天霧先輩に書類を渡した。
『んじゃあ、教室に戻ろっか。待たせちゃってごめんね?』
「ううん、大丈夫だよ!」
また来いよー、と言う不知火先輩の声を聞きながら扉を開けて後悔をした。出来れば会いたくないその人が目の前に立っていたから
伊織ちゃんはマイペースに『相変わらず眩しい』と隣で呟いた
「我が妻よ。どうした?俺に会いたくなったのか」
頼めば会いに行ってやらないことも無い、と目の前で偉そうに笑う風間さん。痛い、勘違いが痛すぎる…
『千鶴、キンキラは目に良くないよ。早く目を休めなきゃ』
「…そうだね」
伊織ちゃんの手を強く握り、風間さんの横を通り過ぎようとしたとき、風間さんが不機嫌そうに言った。
「貴様はまだ虫のように俺の妻に付きまとっているのだな」
ストレート過ぎる嫌み。心配になって伊織ちゃんを見れば笑っていた
『えぇ。僕、千鶴大好きですから』
そう言って風間さんの目の前で、伊織ちゃんはちゅっと軽く私の頬にキスをした。…え、キス…?
「!?」
ぼふん、と音がつきそうな勢いで顔が真っ赤になったのが自分でも分かった。
「…貴様、」
ゆらりと、風間さんの背後に静かに怒りの炎が見えた。伊織ちゃんはまだ笑っている
『…ふふ、それじゃあ失礼しますね』
伊織ちゃんは風間さんを怖がること無く私の手を引きながら生徒会室を出た。
風間さんは追っては来なかった。
「…、伊織ちゃん、大丈夫?」
『ん?』
伊織ちゃんは私の質問に『大丈夫、大丈夫』と軽い調子で返事をした。
『何かあっても千鶴には被害いかないし、僕も綺麗でプライド高い人の歪んだ顔見るの好きだし。なんら問題ないよ。』
そうすごく愉しそうに笑った伊織ちゃんに、…伊織ちゃんの新しい一面を見た気がした