恋とか恋人とかリア充とかなんとか……
そんなものには一切縁がなかったし、興味もあまり無かった、故にそれがどんなものかもわからない
だけど、これだけは確実にわかる。
「僕と付き合ってくれる?」
にこやかな笑顔で人に鋏を突きつけながら、そう言うのは告白ではなく間違いなく脅迫だ、と。
そして、これを受け入れなければ私は学校にもう二度と来れなくなるか、最低この世を去ることになってしまうこと。
「沈黙は肯定ととるけどいいかな」
シャキッ…、といい音をたてて鋏が開かれる。
あぁ、もう自分がビビりなのが悔やまれる。
でも結局のところ私がビビりだろうがそうじゃなかろうが、選択肢は1つしか無いんだ
『……よろしく、お願いします』
そう言って頭を下げれば「うん、いい子だね」と彼が笑った気がした。
いや、笑ってたんだと思う。
「じゃあ、ルールを決めようか」
赤司くんは鋏をしまうとにっこりと微笑んだ。きっと普通に見てるだけなら見惚れてしまうような笑顔なのだろうけど、まぁさっきまで鋏を突きつけられていた身としては恐怖以外の何も感じない
『ルール、とは?』
怒らせたり機嫌を損ねたりしたら面倒なのであくまで下手に出ながら赤司くんに問いかける。
――と、その瞬間赤司くんの目が鋭くなった。笑顔のままで
あらら、早速私は赤司くんの機嫌を損なうことをしてしまったらしい。
「それ」
『…はい?』
「敬語を使うのは禁止だ。僕らはもう"恋人同士"だからな。僕のことは名前で呼べ。僕もお前のことを菜乃と呼ぶ」
『……わかった』
さてはて、名前を呼ばれることにこれだけ恐怖を覚えたことなど今まであっただろうか。…多分無いよね。ついでに言えば人の名前を呼ぶことにこれだけの拒否感を覚えたことも無いだろう
「菜乃」
『なに、征十郎くん?』
「今日は遅くなるから先に帰ってくれ。だけれど明日からは一緒に帰るから」
『うん、わかった』
明日からは一緒に帰らなくちゃいけないのか。正直面倒だ。口には出さないけど。
「じゃあ、僕はこれから練習があるから失礼するよ。気を付けて帰るんだよ」
『うん。また明日』
去っていく赤司くんの後ろ姿を見送って、私は小さくため息を吐いた。
これ、夢ってことに誰かしてくれないかなー。
20121029
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