どうしたものか。
突然泣き出してしまった黄瀬の背中をぽんぽんと叩きながら考える。
イライラしてたかと思ったらいきなり人を押し倒して、名前呼んでって言うから呼んだら、抱き着いてきて泣き出すなんて
こいつは子供か。
「菜乃、」
『ん、なに、涼太?』
私の名前を呼んですがり付いてくる黄瀬の頭も撫でてやる。そういえば黄瀬が私を名前で呼ぶのはいつぶりだっけ?
「菜乃、好き、っス」
『そかそか、私も涼太好きだよー』
「意味が違うっス…!」
『うぉっ!?』
ぎゅうううっと強くなる力。ちょ、お腹、お腹しまってる、苦しい!その意味を込めてぺちぺち黄瀬の腕を叩くと、黄瀬は嫌々ーって感じを出しながらも腕の力を緩めてくれた
「いいっスよ。菜乃が気付くまで頑張るから」
肩に顎を乗せて不満そうに呟く黄瀬。何を頑張るかはわからなかったけど、とりあえず「頑張れ」って言ったら黄瀬は呆れたように息を吐いた。
「菜乃って、鈍感っスよね」
『そうかな?』
「そうっス。でもそっちのがやりがいあるっスよね。」
『?』
「とりあえず、オレは菜乃が好きだ」
またぎゅっと抱きついてきた黄瀬を受け止めながら考える。
今、黄瀬が私に言った「好き」が私と違うならば、きっとまだ私はその「好き」を理解できないだろう。
でも、いつか私がその「好き」を理解できた日には、何かが変わるかもしれない。それは少し怖いけれど、それ以上に楽しみな気がした
20121007 完
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