「そうだったのか…」
さっきの敦くんのことを一通り話すと、赤司くんはただそう言って優しく私の頭を撫でてくれた。人に話すと、少し頭の整理が出来るらしくて、涙はいつの間にか引っ込んでいた。
『…私、敦くんに嫌われちゃったのかな』
膝をぎゅうっと抱え込んで、呟く。引っ込んだはずの涙がまた出そうになる
「…小里は紫原のこと、嫌いになったか?」
『ならないよ、敦くんのことは大好きだもん。もう嫌いになったりできないくらい好き』
実際今がそうだ。
知らないって言われても、私は敦くんの傍にいたいって、どうしようもなく好きだって思ってる。
「なら大丈夫だ。紫原は子供っぽいところがあるから、勘違いか何かで感情的にそう言ってしまっただけだと思うよ。」
『そう、かな…?』
「あぁ。紫原は小里のこと見てて面白いほどに好きだからな」
優しく笑う赤司くんの言葉がほわりと悲しくて冷たくなった気持ちをあっためていく。赤司くんはすごくいい人、だ
『…ありがとう、赤司くん』
「気にすることはないよ。…でもまぁ、紫原が嫌になったらいつでもオレのところに来るといい」
そして悪戯気に笑った赤司くんに、ほんのすこし…、ほんのすこし……、きゅんとしてしまった。
…はっ!
あぁぁぁあ!?だめ、だめだよ!敦くんがいるもん!敦くんが一番好きなんだから!!
「小里。」
『……はい?』
心の中で絶賛大葛藤をしながら、振り向いて、固まった。目の前に赤司くんの綺麗な顔があったから
『ちょ、赤司くん…!?』
ぶわぁぁぁっとものすごい勢いで顔に熱が集まってくる。こ、これはだめ本気でだめ!!近付いてくる赤司くんの綺麗な顔に耐えきれずぎゅっと目をきつく閉じた
「――ダメッ!」
直後、何かが私の体を勢いよくひっぱった。耳元では、少し荒い息継ぎが聞こえる。
「赤ちんでも、なほちんのことはっ、あげない…!!」
ぎゅっと力強く私を抱き締める腕は、そして響いた声、それは間違いなく大好きな敦くんのもの。首を捻って後ろを見れば、肩で息をしている敦くんが見えた。
「なほちんはオレの!誰にもあげない」
敦くんのその言葉が、嬉しくてどうしていいか、わからなくなって、つい赤司くんを見ると、赤司くんは笑った。そして一瞬で表情を真剣なものへと変えると、敦くんを見上げた
「なら、目を離すな。大事にしろ。小さな嫉妬くらいで泣かせるな」
「……っ、」
赤司くんはそれだけ言うと、静かに屋上から出ていった。残されたのは私と敦くんだけ。
敦くんは、私をそっと下ろすと泣きそうな顔で私を見た。
「…なほちん、ごめんね。知らないなんて、本気じゃない。…なほちんが知らない奴と喋っててムカついて、ごめん……」
『敦くん、』
「なほちん、泣きそうな顔してたから、それが頭から離れなくて、なほちん泣いてたらどうしようって」
『………』
「嫌いに、なんないで…」
涙声で発せられた敦くんの言葉に、私は無意識のうちに敦くんに抱き着いていた。嫌いに、ならないでなんて、私の台詞なのに
『嫌いになんて、なれないよ…。大好きだもん。ごめんね、敦くん』
「オレも大好き。ごめんね、なほちん」
ぎゅーってもう一回強く抱き着いてから、敦くんの顔を見れば敦くんの顔は泣きそうな真っ赤のままで、ふふっと小さく笑いがこぼれた。
「あー、なほちん笑った」
『敦くん、可愛いんですもん』
「なほちんのが可愛いし」
見つめ合って笑い合って、そっと口付けたら、さっきまでの悲しさなんていつの間にか綺麗さっぱり無くなっていた。