(…すごい)


体育館の扉の隙間から中を覗き込むと、ちょうど敦くんが練習をしているところが見えた。いつもはゆるゆるしてる敦くんが、まるで別人みたいに見える

いつもの敦くんももちろんすっごくかっこいいけど、可愛いのが強い気がする。でもバスケしてる敦くんはかっこいい、ひたすらかっこいい


『…かっこいい、なぁ』


綺麗な紫の髪の毛舞うように動いてるし、汗はきらきら輝いてる

無意識にこぼれた言葉。しかも呟くように小さな声。だから私は驚いた


「なほちん!」


迷わず真っ直ぐ私の方に駆け寄ってきた敦くんに。扉の隙間から覗いているだけなのだから普通気付かない筈なのに、実際敦くん以外の人は何事だって顔をしている。それなのに、敦くんは笑顔で扉を開いて私に抱き着いてきた


『あ、あああ敦くん!?』
「わーい、なほちんだ!練習見に来たの?」
『う、うん。敦くんいるかなって思って』
「なほちんまじ好き」


ぎゅうううっと強く嬉しそうに私を抱き締める敦くん。私も嬉しい、嬉しいけど…!恥ずかしいし、苦しい…!

敦くんがおっきいから私のことは部員の方には見えてないだろうけど、注目は確実に集めてる


「紫原の彼女だってよ」
「え、紫っち彼女いたんスか!?」
「確か1ヶ月前くらいに付き合い始めたらしいです」


耳に入ってくるそんな会話。うわぁぁあ、恥ずかしい、恥ずかしすぎる…!

とりあえず隠れてるのに顔を隠したくて仕方なくて、目の前の敦くんのお腹に顔を押し付ける


「今日のなほちん甘えたがり?かっわいい〜」
『い、いや違っ…!』


否定の言葉を発しようとした口は、敦くんの長い人差し指が当てられたことによって発する前に消えた


「練習もうすぐ終わるから、手繋いで一緒に帰ろー?」
『え、あ、…うん』
「じゃあ、ちょっと待ってて〜」


敦くんは体育館の中に入って扉を閉める。それを見て小さく息を吐く。…恥ずかしかった。付き合っている、それは事実だけれどそれを他人から言われるのはやっぱりまだむず痒く恥ずかしく感じる

心を落ち着かせるために、薄暗くなり始めた空を見上げてみる。ぽつり、ぽつりと現れて輝きを放つ星たちをそのまま、暫く眺めていた。


「なほちん、お待たせー」
『お疲れ様、敦くん』
「ありがとー。なほちん来てくれたから疲れとか一瞬でぶっ飛んだし」
『私、すごいですね』
「なほちんはオレ専用の万能薬だから」
『なにそれっ』


自然に絡まる私の右手と敦くんの左手。少しずつ体温を奪っていく寒さの中でも繋がれた手だけはあたたかかった。








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