「なほちーん」
耳に届いた大好きな声に振り返れば、お菓子をたくさん抱えた敦くんの姿がすぐ視界に入った。
寝癖なのかぴょこりと立っている毛が、目玉の親父さんをのせている彼の例のアンテナみたいで、笑いそうになる。
一緒にいた友達に一言声をかけてから敦くんの方へと駆け寄った
『敦くん、どうしたの?』
「昨日お菓子いっぱい買ったから一緒に食べよー?」
まいう棒の新作も買ってきたんだー。とふわふわ嬉しそうに笑う敦くんに私も嬉しくなってくる。でも、だめ。まだ授業がある。
『じゃあ、お昼休みに一緒に食べましょうか』
「えー」
不満そうにぷくっと頬を膨らませる敦くん。…ま、負けないんだから!
『授業はちゃんと受けないと駄目ですよ。』
「なほちんいないとつまんないから受けたくない」
『…私だって敦くんいないとつまらないですよ』
制服の裾をぎゅっと握り締めて、敦くんからぷいっと視線を反らす。私だって出来るなら授業なんか受けないで敦くんと2人でいたい。でも、それじゃあ駄目だから我慢してるんです
「じゃあ、一緒にいればいーじゃん」
『授業があるから駄目です』
「オレと勉強どっちが大事なの」
だんだん不機嫌になってきたのか気持ち敦くんの声が低くなってきた。オレと勉強どっちが大事って、そんなの…
『敦くんに決まってる、でしょ…』
「なら、」
敦くんの言葉を遮って私は言葉を紡ぐ。
『でも、これからも敦くんと一緒にいたいから勉強しなくちゃいけないんです…』
敦くんの制服の裾を掴んで、俯く。敦くんはきっとバスケの推薦で頭のいい学校やお金のかかる学校に行ってしまう。つまり敦くんとこれからも一緒にいるためには勉強をしなくちゃいけない。今だけじゃなく、もっともっと一緒にいたいと思うのは敦くんもじゃないの?
「…なほちん」
『なんですか……』
バサバサとお菓子の落ちる音がしたかと思えば、大好きな匂いが私を包んだ。
「なほちん、そんなにオレのこと好きなんだ」
『好きですよ…』
「じゃあ、昼休みまで我慢する」
だから、昼休みになったらいっぱいいっぱいぎゅーして、いちゃいちゃしよーね。そう言って私のおでこにキスをした敦くんに、私もお返しに背伸びしてほっぺにキスをした。