福井に告白された朝
『ふっくいー!』
自分の名前を呼ばれて福井は一旦足を止めると、声が聞こえてきた方へと体の向きをかえる。
そうすると、すぐ視界に声の主が入ってきた。
「神原かよ」
にやにやとした笑顔で自分を「面白いものを見つけた」と言わんばかりに見てくるクラスメイトである菜音に、福井は手を額に当てて小さく息を吐き出した。
菜音がこんな風に笑うときは大抵自分にろくなことは起こらないからだ
「何か用か?」
そう面倒だという気持ちを一切隠さずに福井が菜音に問うと、菜音はそれが少し気に入らなかったのか「ちょっとは表情自重しろ」と福井の背中を握りしめた拳で軽く叩いた。
「いてぇっ。んで本当になんの用なんだよ?」
『あれ。なんだっけ』
「馬鹿かおまえ」
話しかけてきたくせに用事を忘れて首を傾げ出す菜音に福井は朝から二回目になるため息を吐く
…たく、本当にこいつは。 そう思いながらもうんうん唸っている菜音を待っていると菜音は「あ」と声を上げた
『そうそう!福井がさっきかっわいい子からラブレター貰ってんの見ちゃった☆って言いたかったんだ!』
「…あぁ」
菜音の言葉に数分前に一年の女子に手紙をもらったことを思い出す。
『ねぇ、付き合うの?』
「あの子には悪いけど断るつもりだよ」
『なんで?可愛かったじゃん?』
「うるせーよ。……大体好きなやついるのに付き合うわけねぇだろ」
『え?福井好きな子いるの?』
「……あ」
しまった、福井が菜音の方をちらりと見ると菜音はさっきよりもずっとにやにやと笑いながら目を輝かせていた
『え、だれだれ?』
「教えねーよ」
『けちー。私と福井の仲じゃん?』
不満そうに頬を膨らませながら嫌がらせのつもりなのかぐいぐいと菜音は福井の鞄を引っ張り始める。
『…教えてくれたら協力するのに。絶対両想いになるよ。100%だよ?』
「……本当に絶対にか?」
いきなり足を止めた福井に若干驚きながら菜音も同じように足を止める。
福井が前を向いているため、福井の後ろに立っている菜音には福井の表情は見えない。
「よし、じゃあオレの好きなやつ教えてやるよ」
『え、ほんとに?』
くるりと福井は菜音の方へと向き直ると、少し屈んで周りにぎりぎり聞こえないくらいの大きさで言った
「お前。」
『……はっ?』
「だから、オレは神原が好きだっつてんの」
『〜っ!』
目の前でまるで熟れたトマトのように顔を真っ赤に染めて、口をぱくぱくさせる菜音。
福井はそんな菜音の手を少し乱暴に握り自分のセーターのポケットへと突っ込むと足を動かし始めた。
赤くなった顔を隠すように俯きながら歩く菜音同様に福井も菜音に負けないくらい赤くなった顔を隠すようにマフラーを鼻元まで引き上げた
ふゆのぬくもり
20121016
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小説第三段のポスターにて。
陽泉いいよね。