両想いが怖い黄瀬
『私、黄瀬のことが好き。』
それはまるで夢だと錯覚してしまいそうな幸せなことだった。
ずっと、ずっと自分の片想いだと想い続けていた好きな人からの告白。
嬉しかった、ものすごく嬉しかった。
でも、同時に
―――すごく、怖かった
だからなのかもしれない、無意識のうちに、「少し考えさせて欲しい」と言葉を紡いでいたのは。
―――…
『あ、黄瀬おはよう』
「菜音っち、おはよーっス」
あの告白からもう1週間がたっていた。
菜音っちは、特に返事を催促してくることも無かったから、俺ももう少し、もう少しって返事をせずにいたらいつの間にか時間がこんなに過ぎてしまっていた。
『昨日さ、部活で――』
菜音っちは、俺に告白したあともする前と変わらない態度で俺に接してくれていた。だからなんだろうか、余計に戸惑うのは
『―黄瀬、どうしたの?具合でも悪い?』
「え…、ぜ、ぜんっぜんそんなこと無いっスよ!?」
『そうなの?ならいいんだけど、上の空状態な気がしたからさ』
「さ、最近忙しくて寝不足だからかも」
『それは駄目だね。部活に支障出ちゃうじゃない』
それに黄瀬はモデル(笑)なんだから、肌大切にしないと!半分からかうようにそう言う菜音っちに、「そーっスね」と返事をしながら思う。
この寝不足は、毎晩きみのことを考えて眠れないものなんだ、と
『…ねぇ、黄瀬』
「?なんすか」
『…自惚れかもしれないんだけど、黄瀬が寝不足なのってもしかして、――私のせい?』
さっきの態度とは打って変わって、真面目な顔で、そう聞いてきた菜音っちにどきりと心臓が跳ねる
『最近黄瀬が部活中上の空でよく赤司に怒られてるって話、よく聞くし』
冷や汗が背中を伝っていく。
『最近黄瀬に何かあったか、って聞かれたら私が黄瀬に告白したことくらいしか浮かばないし……』
どうしてだろう、いつもはきはきしてる真っ直ぐな菜音っちの声が震えているように聞こえるのは
『私さ、黄瀬に迷惑かけるつもりは無かったんだよ。だからさ』
菜音っちは、ふわりと笑みを浮かべて、言った
『―忘れて。全部、無かったことにしよう?』
心臓が、いや胸が抉られたような感覚って、こういうことを言うんだ、なんてそんなことを思った
『まだ1週間だから、クーリングオフってことで。』
あはは、なんて笑う菜音っち。無理して笑ってることに俺が気付かないとでも思ってるんスか?ずっと、ずっとあんたを見てきた俺が気付かないわけがない。
こんな顔を、させたいわけじゃなかった。
寝不足でも、きみを想う時間は確かに幸せだったんだ。だから、全部自業自得なわけで、
「…いやだ、」
『え?』
「忘れるなんていやだ、って言ったんスよ」
廊下、誰が見てるかなんて関係無い。俺は、俺は、菜音っちが…!
想像よりもずっと細い手首を引いて、その小さい体を腕の中に閉じ込める。
菜音っちが腕の中で慌てるのを感じながら、そのままぎゅうっと抱き締めた。
『え、ちょ、黄瀬!?』
「好き、好きなんス」
『黄瀬…?』
「あんたのことが、好きだ」
菜音っちが大人しくなったのをいいことに、俺はその柔らかそうな髪の毛へ手を伸ばし、ゆっくりと撫でた
「…怖かったんスよ。俺、菜音っちのこと好きだから、付き合ったりしたら歯止めが利かなくなりそうで、菜音っちを独占したくなって、…それで、菜音っちの笑顔が見れなくなるのはすごく嫌だった……」
本当は今までだって嫌だった。菜音っちが俺以外と楽しそうに話してるところを見ることが
『……黄瀬』
静かに俺の話を聞いてくれていた菜音っちが、ゆっくりと俺の名を紡ぐ
「な、なんスか…?」
菜音っちは顔を上げで俺を見つめると、にっこりときれいに微笑んだ。…って、え?
『黄瀬、馬鹿』
「はっ!?」
『そんなこと気にするとか馬鹿。』
「ひっひど…」
するりと菜音っちは、手を伸ばすと俺の両頬をつねって左右に引き伸ばした。
『私、黄瀬が好きなんだよ?黄瀬に独占されて嫌なわけないよ。嬉しいよ』
「っ、」
『それに、独占したいと思ってるのは黄瀬だけじゃない。むしろ黄瀬は私に独占される心配をした方がいいよ』
「…菜音っちに独占されるなら、本望っスよ!」
さっきよりも強く、強く大好きなきみを抱き締めた。
大好きなきみも、きみの笑顔も、これからは俺だけが独占していい。大好きなきみが俺を独占してくれる
「菜音っち、好きだー!」
『私も、好きだよ』
後に、この出来事が新聞部によってスクープになり、俺達が生徒公認のバカップルになるのはそう遠くない話。
君と俺の恋愛論
(君が何より大好きだ!)
――――
き、黄瀬くーん(笑)
20120915