お菓子ごと




「、神原!こ、これやるよぃ!!」
『?ありがとう』


それが丸井くんが初めて私にお菓子をくれた日だったと思う。もらったのは、可愛らしい水玉の包装紙に包まれたキャンディだった


「ほい、神原」
『ありがとう、丸井くん』


あの日から毎日、と言っては過言ではないくらい丸井くんは私にお菓子をくれるようになっていた

理由は全くわからないけれど、くれると言っているのに断るのはちょっとアレな気がして、もらい続けていた

そして、今日も例外なく丸井くんは私のもとへとお菓子を届けにやって来た


「神原、ほい」
『うん。いつもありがとう丸井くん』
「べ、別に気にすること無いからな!」


そう言ってばたばたと私から離れていった丸井くんに、何か不快にさせるようなことを言ってしまったかなぁと少し不安になりながらも、今日のお菓子の封を開けてみる

中身は手作りであろうクッキーで、一枚つまんで口に放り込んでみた。クッキーはすごく、ものすごく美味しかった

でも、同時にもらいっぱなしじゃ悪いよなぁって気持ちになってくる。…お返し、とかした方がいいのかな……?

その日の帰り、丸井くんの好きそうなお菓子を買って帰った



そして、翌日もいつも通りに丸井くんはお菓子を持ってやって来た


「神原やるよぃ」
『ありがとう。丸井くん、ちょっとまって』


いつもならここで終わる会話。だけど今日は終わらせない。

がさがさと鞄をあさって昨日買ってきたお菓子を取り出す。そして、それを丸井くんに手渡した


『はい、いつも美味しいお菓子ありがとう。』
「…は、?」


私からのお菓子に丸井くんは驚いたのか、私とお菓子を交互に見つめる。

そして、暫くすると、落ち着いたのか、ぱぁぁぁと明るい笑顔を浮かべた


「ありがとな!俺今めっちゃ嬉しいぜぃ!!」
『よかった』
「やっと振り向いてくれたんだろぃ!?」
『…!』


言葉の直後、私の体を何か暖かいものが包み込んだ。そして上がる悲鳴。そして甘い匂いが鼻を擽った。


『ま、丸井、くん…?』
「…なんだよ?」
『ど、どうしたの…?』


そう言うと、丸井くんは「はぁ?」と呟いたあと、固まった。そして数秒後に「うわぁ!?」と叫びながらひどく慌てた様子で私から離れた


「ご、ごごごごめん!神原!!」
『いや、大丈夫だけど…』


丸井くんは頭を抱えて「うわぁぁあ」と声を漏らす。どうしてしまったんだろう。

屈み込んで顔を覗き込んでみたら、丸井くんの顔は髪の毛に負けないくらい赤くなっていた


「丸井くーん?」


余りにも真っ赤な顔に不安になって声をかけてみれば、丸井くんはいきなり顔を上げて、半ば叫ぶように「神原!」と声を放った。


「明日は覚悟しとけよぃ!!絶対に伝えるからな!!」
『…うん?』







そして次の日、丸井くんは少し小さめのウェディングケーキを持ってきて、私のことを「好きだ」と言った


お菓子ごと
(好きだから、結婚してくれ!)


20120901


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