輝く星空に揺れる飾り付けられた竹

その下で菜音は楽しそうに笑っていた


「菜音、随分楽しそうだね」


俺が声をかけると
菜音は笑顔で振り返る


「うん、だって今日は七夕だよ!テンション上がるよ!!」

「そうだったねぇ…、だから短冊握ってるの?」


菜音の手元へと目を落としながら言えば菜音はそうだよ!、と俺に短冊を一枚渡してきた


「…なに?」

「だから、イザ兄ちゃんも書いて!」


―願い事ねぇ……

そんなもの、いきなり言われると思い付かないもので俺はとりあえず頭に浮かんだものを片っ端から言っていった


「俺の願い?…シズちゃんが死んでくれることかなー」

「だめ!暗い!!」


菜音から即効でダメ出しを受ける


「じゃあ…面白い人間が現れますように、とか」

「…まぁ、イザ兄ちゃんらしくていいんじゃない」



どうやら既に面倒くさくなったらしい菜音からは適当な返事しか返ってこなかった


「…自分で聞いといてそれ?」


不満をこめて言えば菜音は自分の短冊を弄びながら


「イザ兄ちゃんとか…、うん。」


となんだか言葉を濁すように言った。


「ふーん…?まぁいいや。じゃあ菜音の短冊見せてよ」


手を伸ばせば菜音は素早く俺から距離をとった。え、ちょっとひどくない?


「嫌です。プライバシーの侵害です」


そう言われると、人間って無理矢理にでも見たくなるものだよねぇ…?
ニヤリと笑って菜音へと付けば何かを感じ取ったようで、急いで更に俺から距離を取ろうと後ずさろうとしたところを腕を掴んで止めた


「っ!!」

「逃がさないよ?」


腕を掴んだままそう言って口端をあげるとうぁー、と唸りながら菜音は観念したように逃げようとするのを止めた


「じゃあ、はい」

「?…なに?」


笑顔で手を差し出すと菜音はその手を不思議そうに見た。


「菜音の短冊、だよ」

「あっ、新しい短冊が欲しいんだね。ちょっと待っててー」

「いや、あるから」

「…ちぇ」


なかなか渡そうとしない菜音の後ろに周りひょいと短冊を取り上げる


「―イザ兄ちゃんの病気が治りますように…、って…菜音?」

「……だって病気じゃん」



そう言ってそっぽを向く菜音に笑みを溢した後何気なく短冊を裏返す


「―え?これ……」

「あああ!?見ちゃダメ!返して!!」


菜音は慌てて俺から短冊を取り返そうとするのを避けて短冊を読む

―大好きなイザ兄ちゃんと一緒にいれますように


「へぇ〜、菜音って俺の事大好きだったんだ」


意地悪く言えばみるみる顔を赤く染めていく


「そうだよ!当たり前じゃん!!」


だから返して、と飛び付いてくる菜音を抱き締めた


「ちょっ…イザ兄ちゃん!天の川にはんぺん流れちゃうよ」

「意味分かんないからそれ、」


ぎゅっと一度強く抱き締めて菜音をはなす


「それじゃ、早く飾り付けようか」


微笑めば菜音もふわりと笑う


「あっそうだ、短冊くれるかい?」

「いいよー」


はい、と渡された短冊に俺は願い事を書いて笹にくくりつけた


「何て書いたの?」

「秘密だよ」

「うわぁ、イザ兄ちゃんずるい」

「はいはい、それより天の川見ようよ」


座る俺の近くで愚痴る菜音を促せばちょこりと隣に座る


「うわー、綺麗だね」

「…そうだね」


星空のあまりの美しさに思わず感嘆の声が漏れる


「ねぇ、菜音。また一緒に見ようね」


静かにそう言えば、当たり前だと言うように菜音は笑った


―短冊と願い事