とんとんとん、とリズムよく響いてくる彼女が何かを切っている音。


パソコンから目を離して、キッチンの方を見ればエプロンを着けて夕飯の用意をしている菜音の姿が見える


それを見てると自然と頬が緩むのを感じた。菜音と俺は一緒にいるんだなぁ、と実感が沸くから


パソコンの電源を落とし、菜音のいるキッチンに行けば「どうしたの?」と菜音は言う



「手伝いに来たんだよ。なにかやることあるかい?」


「今は…、無いかな。ありがとう」



そしてまたとんとんとん、と規則正しい音で彼女は野菜を切っていく


その姿を壁に寄りかかりながら見ていたらなぜだかわからないけど、後ろから抱き締めたくなった


包丁使ってるから危ないかな、そうは思ったけど身体がその前に動いていたみたいだった



「わっ…!」



かしゃんと菜音が驚いたと同時にシンクの中に落ちた包丁。別に大丈夫だよね



「いきなりどうしたの?」


「んー、抱き締めたくなっただけだよ」



危ないじゃん、そう言いながら俺を見上げてくる菜音。可愛い



「なんです?甘えたいお年頃なんですか」


「うん。菜音限定でね」



ちょっとだけ腕に力を込めてもう一回ぎゅっとすると、菜音は俺に体重をかけて寄りかかってくる



「今日ご飯無くなるけどいいんですかー?」


「んー、それは嫌だけど…」



先にデザートが食べたいかな、と言うと、冷蔵庫からあさって勝手に食べなさいな。だって


ちょっと悔しかったから、軽く口付けたら「いざい」って突き飛ばされた。ひどいな。てか「いざい」ってなに


でも俺に背を向けた菜音ちゃんの耳が赤く染まっているのが見えたから、今日はいいかなってね



―エプロン姿