今日もいつものようにシズちゃんに喧嘩を売る

そして今は適当に差し向けた他校の不良とシズちゃんが喧嘩しているのを眺めている

優勢なのはシズちゃん。当たり前だけど

そんな風に面白おかしく傍観していた俺の耳にいきなり響いたのは扉を勢いよく開ける音。

…誰だよ、もうほとんどの奴はいないはずなのに

そして振り返って驚きのあまりに言葉を失った

―そこにいたのが俺が二年間想い続けている神原さんだったから

きょとりとこちらを見ている神原さんにどうしていいかわからなくなる。話したことなど今まで無かったから

不意に口から出たのは自分でも意味が分からない言葉。


「…神原さんって案外力強いんだねぇ。」


…馬鹿か、俺は。後悔が押し寄せる

でも神原さんは聞いていなかったようで、ただ静かに言った


「…折原、くん、…だっけ?」


どくりと心臓が跳ね上がったような気がした。まさか彼女が俺の名前を知っているなんて思ってもみなかったから


「うん。そうだよ。俺は折原臨也」


ばくばくと激しく脈が打つ。動揺が顔に出ないようにいつもみたいに、笑う


「あぁ、そうなんだ。人の名前と顔覚えるのあまり得意じゃなくて」


申し訳なさそうに眉を下げる神原さん。いいんだよそれで、いらない奴の名前なんか覚えなくていいんだよ


「知ってる。神原さんは必要最低限のことしか覚えないんだよね。そんな君に名前を覚えていてもらえて光栄だよ。」

「そうですか…」


そこで会話は途切れた。何か話そう、そう思ってもうまく言葉が浮かばない話題が見つからない

一旦落ち着かなきゃいけない、ふと校庭に視線を落としてみればもう、喧嘩は終わってしまっていた

かたり、小さな音が教室に響いた。

慌てて教室内を見渡せば神原さんがちょうど帰るところだった


「っ、また明日!」


その後ろ姿に声を放てば、彼女は少しだけ振り返って微笑んだ

また明日。
今日よりもっと近付きたい。