――私は今日、初めて一目惚れというものをした。


この日、私は教室に忘れ物をした。しかも明日までに提出の課題、という最悪な。

日直で先生の手伝いをさせられていたということもあり、校内は茜色に染まり、生徒もちらほらと数人がいるくらいだった

遅くなるから先に帰ってと友達に言っておいてよかった。こんなに待たせていたら何を要求されるかわかったものじゃないから

小走りで教室へと向かう。

早く忘れ物をとって帰りたい

やっと教室について、扉を勢いよく開ける。誰もいないと、思っていたから


「…神原さんって案外力強いんだねぇ」


がんっと勢いよく縁に当たった扉が勢いを少し緩めて跳ね返ってきた

黒髪に赤いシャツ、そして学ラン…。一人の人の名前が浮かんだ


「…折原、くん…、だっけ?」

「うん。そうだよ。俺は折原臨也」


ちなみに君と同じクラスは二年目。くすりと笑う彼は異常なほどに綺麗だった


「あぁ、そうなんだ。人の名前と顔覚えるのあまり得意じゃなくて」


言い訳、になるのかな。
とりあえずこう返すのが普通な気がして、言葉を放つ

折原くんはそんな私を見てまた笑う。


「知ってる。神原さんは必要最低限のことしか覚えないんだよね。そんな君に名前を覚えていてもらえて光栄だよ」

「そうですか…」


途切れる会話、訪れる沈黙。

自分の席に行って忘れ物を取り出す。やっぱり忘れてた課題

なんとなく折原くんを見れば彼は校庭を眺めていた。

柔らかく茜色を受け止める黒髪が、何を考えているかわからない笑みが一枚の絵のように美しかった

少しの間ぼんやりと折原くんを眺めて、すぐにはっとする

こんなことをしている場合では無かったんだった

課題を脇に抱えて教室を出たとき、後ろから「また明日」と折原くんの声がした。

綺麗な彼にまた明日、少しだけ楽しみになった