視界に入ったファーのついた黒いコートに、自然と胸が音を立てた
そのトレードマークとも言える服を着ているのはあの人しかいない
反射的に緩む頬を抑える術などわからない
ただ、偶然に出会えたことが私を舞い上がらせる
声かけてみようかな、とか、もしかしたら気付いてくれるかな、とか期待だけが膨れ上がっていく
…でも、それは簡単に消えてなくなってしまった
大好きなあの人の隣を歩いている綺麗な女の人が見えたから
綺麗な笑顔を浮かべる女の人は、臨也さんととてもお似合いに見えた
そんな二人を見ているだけで、ぎゅっ、と心臓を強い力で握りしめられたみたいに、苦しくなった
目の前が霞んで見えなくなった。
冷たい風が私の頬を撫でていく。濡れた頬が冷たくなった
私は結局なんにもわかってはいなかった。
理解してるふりだけをしていたんだ。
臨也さんは特定の人間を愛さない。彼が愛しているのはあくまで"人間"だから
それなのに、私は何回も話を聞いてもらっている内に、…臨也さんの特別になった気でいたんだ。そんなわけがあるはずないのに
理解しようとするのに心が、私自身がそれを受け入れることを拒む
期待など無駄だとわかっているのに
私はそこでただ、とめどなく流れてくる涙を溢すことしか出来なかった
―制御不能