「…はぁ、」


自分以外誰もいない部屋でため息を吐いた。

胸に秘めていた淡い期待はもう粉々になっていた。

時計の短針があとひとつずれたら今日は終わる。

それでもなぜか菜音を待ち続けている理由はなんなのだろうか。粉々になってしまった期待にでもまだすがりついていたかったんだ

11:55。

あと5分で今日は終わる


「…もう寝ようかなぁ」


布団に入って目を瞑ったら、もしかしたら菜音に会えるかもしれない――…

そんな馬鹿げたことを考えながらも寝室に向かうために立ち上がった


―♪〜♪〜


「…」


途端に鳴り出した携帯の着信音。こんな夜中に誰だよ…。そんなことを思いながら相手を確認しないまま電話に出た


「もしもし、誰です?何時だと思ってるんですか」


菜音が会いに来ないイライラが口調に出る。思った以上の機嫌の悪さに自分でも驚いた


『―臨也、』

「―っ、」


携帯から聞こえてきた声に驚いて思わず息を飲み込んだ。

電話をしてきたのは菜音だった


『ごめん、臨也。遅くなっちゃって…』

「…いいよ、別に」

『あと3分くらいで着くから!』


ちらりと時計を見る。11:58。菜音はきっと間に合わない


「大丈夫、気にしてないから。早く帰って寝なよ。疲れてるんでしょう?」

『大、丈夫…!』


そこでブツリ、と切れた電話。響くのは無機質な電話の終了を告げる音だけ


「…はぁ」


何度目かのため息を吐いたとき、また携帯から着信音が響いた


―♪〜♪〜


「もしもし?」

『ドア開けて!』

「わかった」


携帯を片手に持ったまま玄関に向かいドアを開ける。夜の涼しい風が横を通り抜けた


『臨也!臨也』

「なに?」

『「誕生日おめでとう!」』


電話からと直接耳に届いた声。柔らかな何かが体にぶつかった


「…、菜音…!」

「おめでとう、臨也」


そう言って微笑む君を抱き締めたのは、誕生日が終わる1分前のこと


―1分前