(…あぁもう、なんなんだ……)
ばくばく、ばくばく、うるさく脈打つ心臓が、じんわりと手を濡らす汗が、緊張が俺に襲いかかる
休日、誰かを遊びに誘うことはこんなに緊張することだったけ
何度図書室の前を行ったり来たりしたかわからない。ここに来てどのくらい時間がたったのかもわからない。
…落ち着け。俺。べ、別に誘うくらい普通じゃないか、逆にこんなふうにうろうろしてた方がおかしい!シズちゃんがしてたんなら笑えるけど俺がしてたって面白くもなんともない
よし、気合いを入れると俺は図書室のドアを開いた――…
「…神原先輩」
神原先輩はいつもとかわることなくそこで本を読んでいた。
声をかければ柔らかな笑みとともに返事が来る
「あ、折原くん」
葛藤はもう終わったの?少しだけおかしそうに微笑んだ神原先輩の言葉にみるみるうちに顔に熱が集まってきた
…見られていた、なんて
「ふふ、あの折原くんなんだか可愛かったよ」
「…冗談はやめてください。笑えませんから……」
「冗談じゃないよ、本当」
「そっちのほうが笑えませんよ」
「ふふ、ごめんね」
本を開いたまま裏返して、ぱたりと机の上に置く
「それで、何かあったの折原くん?話くらいなら聞けるけど…」
彼女の綺麗な2つの瞳が俺に向けられる、…柄にもなく気合いを入れてきたはずなのに、言葉がうまく出ない
「あ、あの…神原先輩」
「はい、なんでしょう?」
ふぅ、と息を深く吐いて気持ちを落ち着かせてから、俺はその言葉を口にした
「今度の日曜日にでも、一緒に出かけませんか」
神原先輩は俺の誘いに目を丸くしたあと、こう言った
「…ごめんなさい」
と申し訳なさそうに俯いた。