それはいつもと変わりないある日のこと。

臨也は片手でチェスの駒を弄びながら、パソコンに向かう菜音に話しかけた


「ねぇねぇ、菜音」

「なんです?」

「菜音ってさぁ、白馬に乗った王子様に憧れたりした時代ってあったの?」

「あったように見えます?」

「うーん、無さそうだね」

「ならそんなつまらないこと聞かないで下さいよ」


菜音ははぁ、とひとつため息を吐くと、呆れたような表情で臨也へと振り返った。


「いいじゃない。もしあったって言ったなら、俺、菜音のこと迎えに行くよ?…白馬に乗ってね」


ふふふ、と楽しそうに笑いをこぼす臨也に菜音は付き合いきれないと、再びパソコンに向き直って呟いた


「とんだ迷惑な話です」


―白い馬の王子様

(夢見る歳はとっくにすぎた)