「ねぇ、菜音」

「なに?」


食器を拭いて棚に戻す。その作業をただただやり続けていた私に、臨也はいきなり話しかけてきた

どうせいつものどうでもいい人類愛を語るんだろう。

臨也の方なんてちらりとも見ないでただ食器とタオルだけを見つめる


「俺、ちょっと出掛けてくるね。遠くに長めの」

「はっ?」


かしゃん、音をたててお皿が割れた。それはさっきまで私が拭いていたもの


「…なに?菜音ったら俺が少し傍にいれなくなったことに動揺したの?」

「んな訳あってたまるか。」


割れたお皿の破片を拾い上げ、ごみ箱に放り込む

その私の様子を見ながら臨也はにやにやと愉しそうに口元に弧を描く


「菜音、可愛いねぇ?俺がいなくて寂しいんだ?」

「自惚れんな阿呆。」


なおもにやにやし続ける臨也に背を向けると、臨也はくつくつと声を漏らして笑い出す


「大丈夫。すぐに帰ってくるからさ」


ふわり、と私を優しく包む体温。でも今日は嫌な予感のせいでよくわからない

割れたお皿の破片が、"臨也に何か起こる"って言っているようで、自然と胸がざわついた


「…ねぇ、臨也。本当に行くの?」


寂しいとかそんなんじゃなくて、ただ溢れ出す不安に流されるがままにそう言えば、臨也はぎゅっと私を包む腕に力を込めた


「仕事、だからね」

「あぁ、そう…」



****


臨也が出掛けていって少したった日の朝。不意につけたニュースではほんの少しだけ、こんな報道がされていた


『―折原臨也さんが何者かに腹部を刺され…』


…ほら、嫌な予感当たっちゃった

私は真っ白な部屋で眠っているであろう臨也の姿を思い浮かべながら、紅茶を一口飲み込んだ。


―不幸予想

自業自得だと、私はため息を吐いた