(…こんなことって本当にあるんだ)
ごちゃごちゃとする頭の中のどこか冷静な部分でそんなことを思いながら、臨也は自身よりも少し大きめの手を閉じたり開いたりしていた
「…なんなんだよこりゃあ」
臨也の目の前には不機嫌そうな自分がいて、そちらは状況が読み込めずに苛立っているようだった。
「…よくわからないけど、俺とシズちゃんの体が入れ替わったみたいだねぇ」
「あ゙ぁ゙?なんだそりゃあ」
「見る限りそれ以外有り得ないでしょ?全くシズちゃんは本当に馬鹿なんだから」
はぁ、と呆れたようにため息を吐くのは静雄の姿をした臨也で、馬鹿にされてキレているのは臨也の姿をした静雄というなんとも滅茶苦茶な光景がそこに出来上がっていた
事情を知らない第三者から見れば二人の立場の入れ替わりように驚くのだろう。
「本っ当にシズちゃんって有り得ないよ。何なの?階段で足滑らせてぶつかってくるとか。迷惑なんだけど」
「うるせぇ!避けられなかった手前が悪いんだろうが!!」
「やだなー、シズちゃんったらそうやって責任人に押し付けるんだ?」
「手前にだけは言われたくねぇよ!」
ぎゃいぎゃいと喧嘩する二人。見ただけではいつも通りな筈なのに違和感が凄まじい
そんな二人のところに走り寄る一人の女子生徒がいた。彼女は菜音。二人の同級生かつストッパー役。
「またやってんの…飽きないね〜?」
「!菜音」
彼女の姿を見て声を上げたのは臨也、の姿の静雄だった。菜音はそんな彼の姿を見て小さく首を傾げた。
「臨也くんが大声出すなんて珍しいね。心境の変化でもあった?」
「い、いやその…」
臨也と俺入れ替わってんだ。なんてそんなことを軽々しく言えるわけもなく臨也(静雄)は微かに狼狽える。そんな姿を見た静雄(臨也)は何か企むような笑みを浮かべると、菜音に話しかけた
「ねぇ、菜音」
「ん?なに」
「怪我の手当てしてもらいたいんだけど、いいかな?」
自身のものではない金色の髪を少しだけ揺らしながら頼むと、菜音はどこか不思議そうな表情をしながらもこくりと頷いた
「じゃあ、また後でね。"イザヤくん"」
にたり、嫌な笑みを静雄に向けてから臨也は菜音と共に保健室へと歩き出した
(…静雄と臨也、なんか変……?)