―きっとその日はついていなかったのかもしれない。

転んで洗濯物は撒き散らすわ、見たかったテレビを見逃すわ…、地味に嫌なことがあった

そんな中、何とかお手伝いを終わらせてお昼寝をしていた。もちろん自分の部屋で。

…それなのに、どうして私はこんなところにいるんだろう?

青々とした芝生に色とりどりの花。少し遠くには大きな建物が見える。

これは、明らかに可笑しい。

見たことの無い場所に私の脳内は軽いパニックに陥っていた

とりあえず、状況を確認しなくちゃ…

そして俯かせていた頭を上げたとき、私は驚きのあまりに固まった


「あっ、気付かれちゃった〜?」


ぴょこぴょこ、と可愛らしく揺れる兎耳に長い赤銅色の髪。そして、細身の体にスーツに包んだ人物が目の前にいたから

私と目が合った瞬間、三日月の形の口が、更につり上がった


「君はどこから来たのかな〜、ボク初めて君のことを見るんだけど〜?」


細められた目を微かに開き、彼は私を品定めでもするのかように見た

でも、そんなこと気にならないくらいに私は彼の兎耳が気になって仕方なかった。その耳は不思議なくらいに彼に似合っていたから


「そんなに熱い視線を送られると流石のボクも照れちゃうよ〜?」


くす、と長い人差し指を口に添えて彼は笑った


「…ごめんなさい」


すっと、彼から視線を外したとき、視界に入ってきたものに私はまた驚いた

ふわふわと八本の尻尾が私の後ろで揺れていたから

…これは、不味い。非常に不味い。

そろっと目の前の彼を伺い見てみても、さっきと変わらぬ笑顔を浮かべている

この状況に私は顔を青くすることしか出来なかった。

この尻尾が出ている、と言うことは今の私は妖の姿になっているということ。

普通の人なら見えないのにこの人には見えてしまっている。見られてしまっている

もしかして、祓い屋…!?

こんなところで捕まるわけにも、式にされるわけにもいかない…!

そんな私の心情を知ってか、知らずか彼は私に手を差し伸べた


「君も先祖返りみたいだね〜、ボクもそうなんだよ〜。」

「先祖、返り…?」


聞き慣れない言葉に首を傾ける。きっと今の私の顔は相当間抜けなものだと思う


「その綺麗なふさふさの尻尾に耳、白狐の先祖返りかな〜?そーたんと少し似てる〜」

「…?なるほど?」


そーたん?先祖返り?なんだかよくわからない言葉が次々と彼の口から発せられる

とりあえず、ついていけなくなっているのは確か。


「ボクは夏目残夏。君の名前は〜?」

「夏目菜和、です」

「うんうん、そっかー!じゃあなおたんだね!」

「は、えっ?」


なおたんって、誰?とかそんなことを言う暇も無く、夏目さ…なんか自分と一緒だから違和感有るな、残夏さんは私の腕を引っ張るとどこかへ向かって歩き始めた


「こんなところで話を聞くのもなんだから、ちゃんとお部屋に行こうね〜。」


なんて、言いながら。

私、夢でも見てるのかもしれないなぁ…、と目の前で揺れる兎耳を見ながら思った



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