「菜和の馬鹿」 起きて最初に残夏さんに言われた言葉はそれだった。 「…さ、残夏さん…?」 「菜和って本当に馬鹿だよねー。本当に本当にびっくりするくらいにお馬鹿さん」 私の声なんか聞こえていないように残夏さんは話し出す 「なんで倒れるまで無理するのー?具合が悪いのわかってたんでしょー」 「…すみません」 ぎゅっ、と手元の布団を握り締める。不甲斐なさすぎる自分。体調管理も自分で出来ないなんて駄目すぎる、よね 呆れられちゃったのかな…、熱があるからなのか体調が良くないからなのかどうにも涙腺がゆるくなっているみたいで、頑張らないと涙がこぼれそう 「"迷惑かけたくない"。"心配かけたくない"。」 「―っ、」 「そう、思ってたんでしょう。だから体調が変でも気付かないフリをした。そうしていたら本当に気付けなくなってしまった」 何も、何も言葉が出てこない。ただ、刺さる言葉が 「その結果がこれなんだよ菜和」 深く抉られるような感覚。でもそれが何なのかは私にはわからない。 ただ目の奥が熱くなって、痛くなる。ぼろりと熱いものが頬を伝った 「我慢すればするほどに悪化するものなんだよ。特に病気なんて分かりやすすぎるくらいにねー」 「…」 「我慢するのが悪い訳じゃ無いんだよー、我慢するのは必要。でも時と場合によっては、だけど。」 わかってます、そう呟けばわかってないよと返される。我慢のし過ぎは良くないって言ってるんだからねー、 「菜和はボクが昨日みたいに具合悪そうだったらどうする?昨日みたいに助けてくれるでしょ?」 「当たり前です…!」 「それは菜和にとって迷惑だったー?」 「そんなわけないじゃないですか…!残夏さんが心配だった私が勝手にやったんですから!」 なんでそんな当たり前のことを聞くんだと、残夏さんを見上げれば、彼は口元に綺麗に三日月型を描く 「そういうことなんだよ菜和。」 「…そういうこと?」 「誰だって自分の大切な人のことを心配する。それも無意識にね。そして力になりたいと思うんだ」 そして、それを迷惑だなんて思うことは無いんだよ。わかるでしょう?子供に言い聞かせるかのように優しく、強く言われる 「…はい、」 「それはね、菜和以外の皆も同じ。妖館の人は菜和を大切だと思ってるよー」 「っ、はい…」 「だから我慢しないでボクたちにも菜和の心配をさせてよ。もっと迷惑かけて頼って、甘えてよ」 菜和ばっかり心配してずるいよー、茶化すように残夏さんは笑う 「ねぇ、菜和。ボクには"見える"んだから隠し事したって意味無いからねー」 だから、ほらボクの腕に飛び込んでおいでー?両腕を広げて待ち構える残夏さん。 "だから"の意味はわからないけど、とりあえずその腕の中に飛び込んでみようかな 甘えさせて、頼らせてもらおう、かな… ← |