「…38.4℃。熱、出てるじゃないですか」

「気のせいだって〜、ほらボクこんなに元気だよ〜」

「いいから寝てて下さい。」


起き上がる残夏さんの肩を軽く押し、再びベッドの上に倒れ込ませる

今日の残夏さんは何だかいつもと少し違った。

渡狸くんを弄る姿はいつも通りだったのだけれどほんの少し顔が赤く、息も乱れていた

ほんの少しの変化。
だけどお兄ちゃんを見て育ってきた私にはそれを見抜くことなんて朝飯前なのである


「残夏さん、お腹空いてます?」

「ううん、残念ながらね〜」

「…じゃあ、軽く食べられるもの用意してくるんで寝てて下さい」


何がいいかな、考えながら部屋についているキッチンに向かおうとしたとき、腕をぎゅっと掴まれた


「…残夏さん?」


残夏さんは力無く口を三日月形にすると、強い力で私の腕を引っ張った

私は残夏さんの寝るベッドに倒れ込む

そして起き上がろうとすると、一瞬前に残夏さんの腕が私に絡み付き、そのまま彼の腕の中に引き込まれた


「残夏さーん?」


呼び掛けるのに答えるように残夏さんは腕にこめる力を強くする


「残夏さん、これじゃ私何も出来ないですよ?」


腕をぽんぽんっと叩く。


「…何もしなくていいよ」


残夏さんのいつもより少し低めの声が鼓膜を揺らす


「ボク今すっごく寒いんだよねー、だから菜和があっためてよ」

「私、湯たんぽですか?」

「そう。湯たんぽ兼抱き枕ってとこかな〜」


だから何もしないで此処にいて、残夏さんは小さく呟く


「ふむ…、でも残夏さん薬飲んだ方がいいですよ」

「いらないよ、菜和がボクの薬だから〜」


いやいや私、薬じゃないですから。くるりと寝返りをうって、残夏さんの方を向き困ったように笑う


「うさぎさんは寂しいと死んじゃうんだよ。だから菜和はここにいて」


そう言うと残夏さんは子供みたいに擦り寄ってきた。

それがなんだか可愛くて赤銅色の髪の毛を撫でれば、残夏さんはまたぎゅっと力を強くした

あったかい残夏さんにいつの間にか私の意識はとろとろになっていく


「おやすみ、菜和」

「おやすみなさい、残夏さん」



***



「…、ん」

「あ、おはよー菜和」

「おはよう、ございます?」


まだ眠い目を擦りながら部屋を見ると、もう茜色に染まっていた


「!もう夕方ですか」

「もう夕方ですねー」


見上げた残夏さんはいつも通りに笑っていた


「熱、は?」

「下がったみたい、もう元気だよー」

「そっかー、よかった…」


ほっ、と息を吐く。
残夏さん、元気になって本当によかった…


「菜和、菜和」

「はい?」

「菜和が熱出したら、今度はボクが看病してあげるからね」

「どうもです、」



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