「そーたん、抱いて〜」


朝のラウンジのよくあるひとこま。

構われたがる残夏さんに、それを軽く流す御狐神さん。


「男同士とかほんっとにありえないわ。気持ち悪い」

「まぁ、そういうのって、人各々だからなー」


座りながらそれを眺める野ばらさんと連勝さんと私は一緒にいた


「ふふ、仲良しなのはいいことだと思いますよ」

「!あぁ、その純粋な笑顔の菜和ちゃんメニアック!」

「…菜和って、あの二人の会話の意味わかってるのか?」

「え?残夏さんは御狐神さんのことが抱き締めてもらいたいくらい好きってことでしょう?」

「…うん、そうだな。お前の解釈はそのままでいい」


ぽんぽん、と何故か慰められるように連勝さんに頭を撫でられた。

…どうして?って視線を向けると連勝さんは「あー…」っと言ってはぐらかした


「ねえ、菜和ちゃん!」

「はい?」

「菜和ちゃんは私に抱かれたいくらい、私のこと好きかしら!?」

「は―、むぐっ!?」


はい、もちろん好きですよ。っと言おうとした瞬間、塞がれた口。その正体は黒い手袋をした大きな手


「はーい、そこまで〜」

「!ふぁんへぇふぁん…?」

「ボク以外の人に対してそういうこと言わな〜い」


うさぎさんとの約束☆にこっと笑って、私の口を塞いだ張本人である残夏さんは言った


「ちょっと邪魔しないでよ!!折角菜和ちゃんに好きって言ってもらえるチャンスだったのに!」

「菜和に好きって言ってもらえるのはボクだけ〜。ちよたんに言ってもらったら〜?」

「凛々蝶ちゃんに!?」


りりちゃんに照れながら好きっと言ってもらうところを想像したのだろう。

野ばらさんは鼻から血をだらだら垂らしながら幸せそうな顔になった。


「じゃあ、菜和はボクと一緒に行こうか〜?」

「!、むー!!」


残夏さん、そう声を上げようとしても口は塞がれたままだからただのくぐもったものになるだけ

そのまま残夏さんに連れていかれる私。

いつのまにか人の姿に戻っていた連勝さんはそれを見送りながら、ゆるゆると手を振っていた

…いや、助けてくださいよ!連勝さん!!

そんな願いも虚しく私はラウンジから自室へと運ばれた。


***


「菜和、昨日のボクと話したこと覚えてる〜?」

「覚えてますよ?」


昨日の残夏さんとの会話。

少し遡ってしまうのだけれど、残夏さんに言われた彼女の件については丁重にお断りした。

別に残夏さんのことが嫌いな訳じゃない、むしろ残夏さんのことは好き。

残夏さんがいなかったら、私は今こうしてここにいられていなかっただろうから感謝だってしてる。

だからこそ、断った。

残夏さんは「やっぱりそうだよね〜」って少し悲しそうに笑った

で、そのあと残夏さんは私に言ったのだ。


"なおたんは相手を好きになる気持ちをきちんと自覚できるようになった方がいいよ。それが、なおたんとなおたんのお兄さんのためにも必要だからね"


少し、嫌な汗が背中を伝った。

"好き"を自覚する必要。
お兄ちゃんに抱くこの訳のわからない感情。
何かが、結び付いてしまいそうな気がしたから。


「だーかーら、なおたんにボクが好きを教えてアゲル」


にこっと笑った残夏さん。
有無を言わせない笑顔に首を縦に振ることしか出来なかった私。

これが昨日の私と残夏さんとの話し。


「うん、ちゃんと覚えてるみたいだね〜」

「もちろんですよ」


すっと伸びてきた残夏さんの手は、ゆるりと私の頬を撫でる


「だったら…、」


あんまりヤキモチ妬かせないで?残夏さんはそう言うと、そのまま私を抱き締めた。



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