『櫂!見て見てー!』


自分の名を呼ぶ声に振り返った瞬間、櫂は口に含んでいた珈琲を吹き出しそうになった。なぜなら…


「お前、なんて格好をしてるんだ…」
『え?ノリで買ってきたの着けてみたからどうかなーって!』


ぴょこりと、真っ白な猫耳をつけたミナトがいたからである。しかもご丁寧に尻尾までついている。その尻尾はミナトの動きに合わせて可愛らしく揺れている


「(くそっ、可愛い…)」


ミナトを直視できなくなった櫂が、ミナトから目を反らすと、理由をミナトは櫂のその反応が気に入らなかったらしく不満の声をあげた。


『何さ…。確かにアイチくんが着けた方が可愛いと思うけど。猫耳アイチくんと櫂でいちゃいちゃとか美味しいけど!それ見てられたら幸せだけど!そうだよ、今からアイチくん呼んできて猫耳着けて櫂と2人っきりにしてやる!私は部屋の外から見てるから思う存分いちゃつくといいよ!録画してるから!』


だいぶミナトは話をずらすと、そのまま本当に扉に手をかけて外へと出ようとした。…もちろん、猫耳と尻尾を着けたまま


「お、おい!ミナト!」


その状態をアイチを呼びに行くまでに誰かに見られるのは非常にまずい。本音を言えば非常に気にくわない。ミナトの可愛らしい姿を見るのは自分だけで充分だ。そう思い、櫂がミナトの腕を掴むとミナトは不思議そうに櫂を見上げた。


『どうしたの、櫂?』


揺れる猫耳と尻尾。そして上目遣いで見上げてくるミナトの姿に、櫂の中の何かがぐらついた。


「…っ」
『かーいー?』
「お、」
『お?』


きょとんとした顔で自分の次の言葉を待つミナトの姿に耐えられなくなった櫂は、ミナトを自分の腕の中に引き寄せて、小さい、本当に小さな声で呟いた。


「…お前が、一番可愛い」


櫂のその台詞に全力で吹き出したミナトがいたとかいなかったとかは、後日愚痴を聞かさせる三和だけが知る。





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