▼僕が生まれた日




『………』


なんだろうこの緊張感は、私は今もしかしたら今までの人生で一番緊張しているのかもしれない。心臓がいつ飛び出しても可笑しくないくらいに ばくばくばくばく 言ってるんだから。

胸を押さえつつ くるり と一回転して部屋の最終確認。掃除よし、控え目な飾り付けよし、ケーキは冷蔵庫!!

―ピンポーン

(来た!)

響いたチャイムの音に即座に反応して、玄関へと走る。そして、 ふぅ と息をひとつ吐いてから、ゆっくりとドアを開けた。


「こんにちは。菜乃」
『いらっしゃい。赤司くん!』


赤司くんが私の家に…!
その現実だけで緊張がさらに増していく。
大丈夫、大丈夫だ私。皆に協力してもらって考えたアレをするまでは、緊張など忘れるんだ!

赤司くんを部屋まで案内して、適当なところに座ってもらうと、赤司くんは「へぇ」と小さく呟きながら部屋を見回し始めた。

そうじは昨日部屋の隅々までやったから大丈夫な、筈だ!でも正直恥ずかしいし、用意をするため、そろそろ目を瞑ってもらわなければ


『赤司くん、ちょっと目瞑ってもらってもいい?』
「え、あぁ、わかった」


目を瞑ってくれた赤司くんの目にさらにアイマスクを着けさせて、視界シャットアウト完璧!
赤司くんに『ちょっと待っててね』と告げて私は部屋から出て台所へと向かう。

赤司くん、喜んでくれますように!












***


視界を遮られて数分がたっただろうか。部屋のドアが開く音と共に ふわり とあたたかくいい匂いが鼻を擽った。

あぁ、これは…

そこまで考えて ふっ と小さく笑みが溢れた。流石菜乃、だな。


『赤司くん、アイマスク取って目開けていいよ。』


菜乃のその言葉にアイマスクを取って目を開くと、目の前のテーブルにはさっきの匂いのもとである土鍋と、菜乃の手作りであろうケーキがあった。
自然に表情が緩んでくる。
今、俺はどうしようもないくらいに嬉しいらしい。


『赤司くん、』


耳に届いた愛しい声。
テーブルの上に向けていた視線を菜乃の方に向けたとき……


「っ、!?」


ドンッ!と菜乃が正面から飛び付いてきた。


「おい、…菜乃?」

菜乃がこうして飛び付いてくることなんて初めてで、表には出さないようにしながらも内心激しく動揺してしまう。
とりあえず、菜乃の背中に手を回して、菜乃の体を抱き締め返すと、菜乃は もぞり と動いて俺の胸元に埋めていた顔を上げた。
そして俺を真っ直ぐに見つめてきた。
そうして、ほんのり赤く染まった顔を緩ませて言った。


『誕生日おめでとう。征十郎くん!……大好きっ』
「〜っ!?」


大好き、という言葉とともに頬に触れた柔らかな感触。
……あぁ、どうしてこうも俺の彼女は可愛いんだろうか。


「ありがとう菜乃。」


ぎゅうっ と強く抱き締めると、菜乃も同じように抱き締め返してきてくれる。
腕の中の体温が愛しくて、大切で、幸せだと思う。

まだまだ始まったばかりの俺の誕生日。
今までで一番幸せなものにしてもらおう。

そんなことを頭の片隅で考えながら、菜乃に口付けた。




20121118
――――――
もうこういうのは本当にキツいわ…!
書き終わすのに何週間かかったことか……!赤司くんめっ!



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