▼いつものきみと
授業のない新学期1日目はたいしてすることがないために、あっというまに終了した。
帰りの支度を済ませたクラスメイトたちは、次々と教室から出ていく。そうして気が付けば教室には、私と赤司くんだけになっていた。
『赤司くん帰らないの?』
「あぁ…、うん、…少し」
視線を私から少しずらして歯切れ悪く答える赤司くんに、なんだか嫌な予感がしてしまう。
(…仕方ない、のかな。)
私と赤司くんはちゃんと知り合ってまだ半年もたっていないんだから、言えないことなんてたくさんあるだろうし、赤司くんには赤司くんで色々あるだろうし
いやいやいや待て、私。暗くなるな!こんな悶々と考えていても仕方無いじゃない!!
部活休みだし、赤司くん誰よりも努力家だから、今日は自主練とかするつもりなんだろう。じゃあ、私のすることはひとつ、赤司くんの練習の邪魔にならないように早く帰ることだ。
『そっか。じゃあ、私帰るね』
鞄を取って赤司くんにバイバイと、手を振る。そして教室から出ようと歩き出した。
(…あれ?)
のに、何故か体が前に進んでない。むしろ下がってるような気がする。
何故なに!?ちょっ怖い、私と赤司くんしか教室にいないはずなのに何故私の手は後ろに引かれている!?
え、後ろ髪引かれるの手バージョン?赤司くんと離れたくないの私!?なにそれ恥ずかしいっ
「菜乃」
焦ってぐっちゃぐっちゃになっていく頭に、静かに赤司くんの声が響いた
「一緒に、帰らないか」
『…へ?』
「その、俺と2人で…帰るのは嫌か…?」
ちょっと恥ずかしそうに、話す赤司くん。すっごく可愛い…
『…嫌なわけないよ?むしろ幸せだと、思っております……!』
私の手を掴んでいた赤司くんの手に空いてる方の手を重ねる。……あ、もしかして前に進めなかったの赤司くんが私の手、握ってたから…?
胸の奥が、きゅんっとした。
「…よかった。じゃあ帰ろうか」
握り直された手は指と指がしっかり絡む恋人繋ぎと言うもので…
慌てて赤司くんを見上げれば、その表情はさっきとは打って変わって、いつもの表情に戻っていた
…ちょっと、惜しい。
そう思う反面やっぱりいつもの赤司くんが一番好きだとも思った
(いつものきみと)
20120926
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