▼打ち上げ
《打ち上げやるから、体育館に来てね!》
それが昨日さっちゃんから届いたメール。私は今、メール従って学校に向かっている。
みんみん煩い蝉の声を聞きながら、少しいつもと違う何かを感じながら進んでいく。いつもと違う何かなんて、わかりきっているけど。
「白月さん」
『!赤司くん』
校門の前、柱に寄りかかる赤司くんの姿を見つけて慌てて駆け寄る。…なんか照れる、かも
「2日ぶりくらいか?」
『そうだね。全中終わってから会うの初めてだから。』
普通に話そうと思うのに、なんだか赤司くんが目の前にいるのを妙に意識して、そわそわしてくる。…どうしたものか。ちらりと赤司くんを見上げてすぐ俯く、それを繰り返していたら、赤司くんの小さく吹き出す声が頭上から聞こえてきた。
「白月さん、もしかして緊張してるの?」
『…い、いやぁ…その、ハイ……』
否定しても無意味なことはわかってるから、素直に頷くと赤司くんはまた笑った。…ちょっと赤司くん笑いすぎと違います?
「あー、もう。本当に菜乃は可愛いね」
『!?』
ぼふっと赤くなる顔、な、なななな名前でよよよ、呼ばれた…!しかも、笑顔付きで…!?えっ!?なに、赤司くんどうしたの!?
「皆待っているから、そろそろ行こうか」
『え、あ、…はいっ』
戸惑う私の右手を自分の左手と絡めて、歩き出した赤司くんに私の脳内はキャパオーバーになりそうです、いやなっている。
そんな私の脳内を知ってか知らずか、赤司くんは上機嫌に私の手を引いていく
体育館に行くまでの間、赤司くんがなにやら話していたけれど、キャパオーバーの私には話の内容など頭に入っては来なくて、『あぁ』とか『うん』とか相槌程度しか返すことが出来なかった。
***
「なのちん!」
『むーくん…!』
もはや恒例むーくんとの再会のハグを交わして、体育館を見回してみる。
いつもと特に変わって…ない、よね?
正直むーくんが目の前にいるから何にも見えないんだけど。
「なのっち、赤司っち!ご両人の登場っス!!」
いきなりステージに現れた黄瀬くんが、マイクを片手にいきなりそう叫んだ。大きすぎた声はキーンッと言う嫌な音となって体育館に木霊する。
…てか、黄瀬くんのあの小指はなんなんだろう?なんだかイラッとくる
「おい!黄瀬うっせぇぞ!!」
「マイク使って叫ばないで下さい。」
青峰くんと黒子くんの発言に激しく同意。うんうん、と頷いていたら、視界の端で何か光っているのを見つけた。
…嫌な予感しかしないのはどうしてなんだろう?
次の瞬間には光は黄瀬くんの元へと一直線に飛んでいっていた。ヒュンッと風を切る音がマイクを通して体育館に響く
「涼太。うるさいよ」
次に響いたのは赤司くんの声。…もとい黄瀬くん終了のお知らせ。
「ヒィィィイ!?すんませんっ!!」
半泣きのモデル(笑)に赤司くんはゆっくりと近付くと、黄瀬くんからマイクを奪い取った。
「それじゃあ、俺達、桃井、菜乃だけの打ち上げを始めよう」
「「いえーい!」」
さっちゃんといつのまにか復活した黄瀬くんの声を合図に、私達だけの打ち上げが始まった。
『わぁ、打ち上げっぽい!』
むーくんで見えなかったけれど、体育館は確かに打ち上げ仕様になっていた
打ち上げに使っているのは一角だけだけれど、その一角がこれでもかっ!ってくらいに飾り付けされている。大方さっちゃんと黄瀬くんがやったのかな?
並んでいる長テーブルの上にはたくさんのお菓子にジュース。あと何故か大量の調味料。
「なのちん。こっちおいでよ。お菓子食おー?」
『うん!』
誘われるがままに、むーくんのもとに駆け寄れば長テーブルに乗り切らなかったらしいたくさんのお菓子が山積みになっていた。…まさか、こんなに食べるの……?
(でもむーくんなら食べきりそうな気がする)
なんだか妙に納得してしまう不思議。
もぐもぐとお菓子を食べるむーくんの隣に座ろうとしたとき「駄目だ」と耳元で赤司くんの声が言った
『!?』
「菜乃はこっちだ」
振り返れば目の前に赤司くん。反応する暇も与えてくれない赤司くんの両腕が私のお腹に回る。
ちょっと、ヤバい…!最近夏休みだから運動あんまりしてない…っ!!
焦る私を笑顔で交わし、赤司くんは私を持ち上げると、自分の足の間へと私の体を降ろした
「うわー、見せ付けてくれんなぁ」
アホ峰の声なんて聞こえてるけどどうだっていい。それよりも…なにこの状況…っ!恥ずかしすぎる…!
「俺のことは気にしないで敦とお菓子食べなよ」
にっこりと微笑む赤司くん。…なんか怖いんですが
『赤司くんも一緒に食べよう?』
「菜乃が食べさせてくれるなら」
『……!』
え、ちょっと、赤司くんこんなキャラだったっけ?こんな、え?…あ、赤司くん疲れてるのか、そうかそうか
赤司くん主将だもんね、色々大変だったんだよね全国とかね、うん。個性的だもんね皆ね、うん。
箱からクッキーを一枚取り出して、体を少し捻って赤司くんの方を向く。んで赤司くんの口元にクッキーを持ってって…
『赤司くん。あーん』
赤司くんはちょっと驚いたように目を見開いたあと、満足そうに微笑んでクッキーをかじった。クッキー選んで正解だったみたい。
「赤ちんずるいー。俺もなのちんにあーんされたい」
拗ねるように口を尖らせたむーくんを、赤司くんは見上げたあとぎゅっと私を抱き締めた
「駄目だ。これは俺だけの特権だから」
……、赤司くんの疲労はかなり深刻なようです。
(打ち上げ)
20120921