▼紫原くんのキモチ




最近、むーくんが変だ。

だるそうとか、ずっとお菓子食べてるとか、いつも通りのように見えて、いつも通りじゃない。

皆もむーくんの様子が可笑しいのを心配して、色々しているけれど、むーくんは「なんでもない」の一点張り。

そうしてかれこれ5日。ついに事件が起きた。さっちゃんの作ったお菓子を食べたむーくんがぶっ倒れたのだ

さっちゃんの料理の腕前を知っているから、むーくんはいつも丁寧に断っていたのに、何故か今回は食べてしまったとのこと。

更に驚いたのは、倒れた大きな原因が寝不足だったこと。お菓子はスイッチ(?)のようなものにしか過ぎなかったらしい

それで保健室で休んでいる、とさっちゃんから聞いて私は今保健室に向かっていた。

(むーくん、どうしちゃったんだろう…)

保健室について、勢いよくドアを開けると、保険医の先生に苦笑いで「静かにね」と注意を受けてしまった。…焦りすぎた、落ち着かないと


『すみません…。紫原くんは』
「紫原くんは窓側の一番目よ」
『ありがとうございます』


今度は静かに、先生に教えてもらったベッドへと近付いて、カーテンをそっと開く。


『…むーくん』


中には小さく寝息を立てるむーくんがいた。長さが足りない掛け布団からは足がはみ出していて、なんだから可愛くて笑いそうになる。

ベッドのわきに置いてあった椅子に腰かけて、むーくんの長めの髪に触れると、むーくんは擽ったそうに身を捩る


『むーくんの髪、綺麗』


そのまましばらくむーくんの髪を撫でていると、突然ふるりとむーくんの睫毛が揺れた


(…起こしちゃった?)


寝不足なんだから、起こさない方がいいよね。


『!』


そう思ってむーくんの頭から離そうと引いた手を、むーくんの大きな手が掴んだ。


「やだ…、もう少し撫でてて」


むーくんは掴んだ私の手を、再び自分の髪へと触れさせる。本当に小さい子みたいで、可愛い。


『…起きてたの?』
「…ううん、さっきなのちんが俺の頭撫で始めたとき」
『結構前から起きてたんだね』
「…起きたの知ったらなのちん、撫でてくれなくなる」


ぷくりと頬を膨らませてそっぽを向くむーくんの髪の毛を、ゆっくりと撫でる


『むーくんがして欲しいならいつでもしてあげるよ』
「約束してくれる?」
『するよ』


小指を差し出して微笑めば、むーくんも嬉しそうに笑って小指を絡めてきた。

さて、じゃあむーくん起きたし、聞くこと聞きますか。


『むーくん』
「なに?」
『最近、何かあったの?』
「………」


黙り込むむーくんの髪を撫でるのを止めて、変わりに大きな手を両手で包むように握る

そのままむーくんのことを見ていると、むーくんはゆっくりと口を開いた


「…変、なんだよ」
『?』
「俺は、なのちんのことも赤ちんのことも好きなのに、2人が笑ってくれてたら嬉しいのに…」
『……』
「痛いんだ、心臓がぎゅってする。……なのちんが俺から離れてくのが嫌だ」
『……うん』
「…俺ね、赤ちんがなのちん好きなのと同じように、なのちんのこと好き」
『………』
「2人には笑ってて欲しいのに、それが嫌で。…そしたら、どうしていいかわからなくなった」
『……むーくん』
「どうすればいいか、って考えてたら眠れなくなった」
『……』
「だけど今寝て、なのちんに頭撫でてもらって決めた」
『…!』


なのちん、そう名前を呼ばれた瞬間には私はむーくんの腕の中にいた。


「なのちん、好き。だから赤ちんと幸せになって」
『――っ』


なんだか泣きそうになってしまう。溢れそうになる涙をぐっと堪える


「敦。」
「…赤ちん」


シャッ、と音をたてて開かれたカーテンの前には、赤司くんが立っていた。

赤司くんは、私を引っ張ってむーくんから引き剥がすと、私を抱き締めた


「好きなら俺から菜乃を奪ってみろ」
『「!?」』


赤司くんの言葉に驚いて、赤司くんを見つめる。それはむーくんも同じだったみたいで。赤司くん本人は自信満々に笑っていた


「まぁ、何があっても渡さないけどな。俺が一番菜乃を好きだから」


頬に触れる赤司くんの唇。一気に顔に熱が集まってくる


「…赤ちん、本気?」
「あぁ。」
「じゃあ、俺がなのちん取っても怒んないでね」
「それは、わからないな」


にやりと笑い合う2人。会話がどうであれ、とりあえずむーくんは元気になったみたい。


「なのちーん」


にゅーっと伸びてくるむーくんの手。それは私に届く前に赤司くんに叩き落とされた


「奪ってみろとは言ったが抱き締めていいとは言っていない」


ぎゅっとさっきより力を強めて抱き締めてきた赤司くんと、子供みたいにほほを膨らませるむーくん。

やっぱりむーくんはこうでなくちゃなぁ。って1人で小さく笑った


(紫原くんのキモチ)



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