▼近付きたいキョリ




これは、なんというのだろうか。

ただのクラスメイトで、特別仲が良かったわけでもない。

むしろ話したことが、片手で足りるくらいしかないくらいだった。それも挨拶程度のもの

俺が、一方的に気にしていただけだったから。


『…赤司、くんだっけ』


あの日、あの瞬間。
あの子が確かに紡いだ俺の名前。それがどうしようもなく、嬉しかった。俺の名前なんて知らないと思っていたから

それがきっかけになって、俺はあの子、白月さんと話すようになった

彼女はのんびりと、好きなように過ごし、好きなときに笑う。

その隣はひどく居心地がよくて。そして考える、どうしたらもっと近付けるのかって。






『赤司くーん。食べる?』

目の前に差し出されたマフィンと、白月さんの声にぼんやりとしていた意識を引き戻す


「あぁ、食べるよ」


焼き上がったばかりのマフィンを受けとると、甘い香りがふわりと俺を包み込んだ。


『焼きたてはやっぱりまた違う美味しさだよね』


ぱふり、とマフィンに噛みつく白月さんを横目に、俺もマフィンに口をつける。…うん、美味しい


「美味い」
『そう?よかったー』


言葉で表すなら、ふにゃって感じにゆるゆるの安心しきったその笑顔に、ほらまた近付きたくなってる


「白月さん」
『なに?』


さて、どうする。どうしようか。


「俺にもお菓子作ってきてくれるかな」
『いいよ。味の保証はないけどね』


とりあえず、地道にやっていこうか。



(近付きたいキョリ)
20120909



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