▼おひとついかが?





『んー、どうしよう…』


自販機の前でお財布を握り締めながら、迷う。気分はさっぱり系ジュース何だけれども、全部売り切れ。残るはスポーツドリンクとお汁粉とお茶、その他もろもろ。ここはお茶が妥当かな?

お金を入れて、お茶のボタンへと指を動かす。えーi「なのっちじゃないっスか!」
『!』


いきなり声をかけられ飛び付かれた衝撃、とりあえず思いっきり自販機に激突した。…最近こんなんばっかり


「あぁ!?なのっちごめんっス!」
『だ、大丈夫』


きっと大丈夫じゃないのは、自販機の方だと思うよ。私より自販機を心配しておくれ黄瀬くん。


『自販機、無事…?』
「えっ!?あ、大丈夫みたいっスよ」
『それならよかった』


改めて自販機を見て、私は戦慄した。おつりが…160円しか、出 て い な い 。

もしかして…、そう思って背中に黄瀬くんを背負ったまま取り出し口を見てみれば、ペットボトルが2本と、缶が1本転がっていた

…あれか、ぶつかった衝撃で色んなボタン一気に押しちゃって反応した物が転がり出てきたと。そういうことか…!

3本取り出して困った。こんなに飲めない。

奇跡的に3本の中にお茶が入っていたのは救いだった。とりあえず飲みたかったものは手に入った。問題は残り、である

冷たいスポーツドリンクに、あっつあつのお汁粉。

…あ、そうだ。


『黄瀬くん、黄瀬くん。これあげる。』


右手にスポーツドリンクを持って、プラプラさせれば黄瀬くんはお犬よろしく食いついてくる


「いいんスか!?」
『うん。あとでアイス買ってくれれば』
「まじっすか…。まぁ、なのっちにならいいっスよ!」


にかっと、まぶしいくらいの笑顔に黄瀬くんにスポーツドリンクを渡す。1本消費完了


『ありがとー』


ついでにアイス奢りの約束も取り付けた。問題ない、むしろ万々歳。あとはお汁粉。これは困る


「白月、黄瀬。こんなところで何をやっているのだよ」
『あ、緑間くん』
「緑間っち!」


きれいにテーピングの巻かれた指で、眼鏡を押し上げながら、緑間くんは不審なものを見るような視線を私たちに向けてくる。

…緑間くん、緑間くんってお汁粉好きかな


『ねぇねぇ、緑間くん』
「何なのだよ」
『緑間くんってお汁粉とか好き?』


間違って買っちゃったからよかったら貰ってくれないかなー。とか淡い期待を持ちながらも、緑間くんにお汁粉を差し出す。すると緑間くんはものっすごいぶるぶる震えだした。なにこれ怖い


「も、……い」
『?』
「貰ってやってもいいのだよ…!」
『本当に?ありがとう』


言葉よりもはっきりと意思を示している緑間くんの手にお汁粉の缶をのせれば、緑間くんは嬉しそうな顔をしたあと、誤魔化すようにこほんと咳払いをした


「おい、白月。お前は何座だ?」
『てんびん座だよ』
「ふん、そうか。明日はお前の星座の分もチェックしておいてやるのだよ」
『?ありがとう』


そうして上機嫌に去っていった緑間くん。彼は不思議な人みたいだ。


「緑間っち、本当に占いすきっスよね」
『なんか、可愛いね』


嬉しそうな顔の緑間くんを思い出して、少し笑いそうになる。お汁粉ひとつであんな風に笑われちゃうとどうしても、ね


「…じゃあ俺、今日なのっちと俺の相性占ってくるっス!」
『え?』


何 故 そ う な っ た 。


「あ、そろそろ休み時間おわっちゃうっスよ!じゃあ、なのっち、また!」

片手を上げて颯爽とさっていく黄瀬くんの背中に『またあとで』と言葉をかけて、私も少しぬるくなってしまったお茶を持って教室へと急いだ。

授業に遅刻したら減点されるのはわかりきっているから。こんなことで減点されるのは嫌すぎる!

幸いなことにこの自販機は教室の近くにある、てかもう目の前。ドアを開けて急いで教科に滑り込む

よし、まだチャイムなってない!ぐっと小さく拳を握ってほっと息を吐くと、すぐ上からくすくすと笑う声が聞こえた。

…誰が笑ってる?

顔を上げればそこには赤司くん。な、なんで笑うの?

笑われている理由がぜんっぜんわからなくて、赤司くんを見上げれば、赤司くんは笑うのをやめてふんわりと笑った


「白月さん、おかえり」
『た、ただいま…、デス?』
「お望みのものは買えた?」
『う、うん!』


なんでだろうか。
微笑む赤司くんを直視できない。
なんていうか、見たら負けみたいな。


「よかったね。でもこれからは時間に余裕を持った方がいい」


ほら、もう先生来てるよ。
赤司くんの言葉に急いで前を見れば、頭が輝く先生がにっこりと笑って私を見ていた。

……や、やばい

さーっと血の気が引いていくのを感じる。きっと今の私の顔は真っ青に違いない。

そういえば今、チャイム壊れてて鳴らないんだった…!慌てて時計を見れば授業が始まって5分たっていた。


「白月、言い訳くらいは聞いてやるぞ?」


にっこりと笑う先生。
あぁ、もう終わった…
がっくりとその場に項垂れると、アホ峰が笑う声が聞こえた。


(おひとついかが?)
20120909
加筆1027



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