真夏の劇ごっこ



「…劇?オレ達が?」

『うん、そう劇。』


ミンミンと蝉が鬱陶しく鳴く真夏の昼間。名前は扇風機の前を占領しながらアイス片手に漫画を読む祐希にいきなり『劇をやろう』と提案したのだ


「えー、暑いしめんどくさいからやだ」


ごろりとソファに寝転がる祐希。今まで座っていたソファは自分の熱であたたまっていて祐希は嫌そうな顔を更に歪める


『お願い、やろうよ?』


扇風機の前に座ったまま名前は祐希の方を向いてこてりと首を傾ける。祐希はそれを見ると静かに漫画を置いて名前の方へと近付いて、隣に座った。


「名前さん。年頃の男は狼なんですよ。名前なんてぱくりといただかれちゃいますよ」

『祐希は赤ずきんやりたいの?』

「なんでそうなるんですか」


頭に「?」を飛ばす名前に祐希はため息を一つ吐いたあと、名前の頭をぐしゃぐしゃと撫でた


「で、名前はなんの劇がやりたいの?」

『んー、桃太郎とかどうかなーって思ってる』


祐希の手によってすっかり乱れきってしまった髪の毛を手櫛で整えながら名前は答える


「桃太郎、いいんじゃないの。鬼は要でどうかな」

『悠太、それいいね!』


はい、麦茶。と冷たい麦茶を祐希と名前に手渡しながら悠太は案をだした。用意をしながら悠太も話を聞いていたのだ

悠太の案により、名前と祐希はさっきよりもノリノリで劇について考え出す。


『じゃあ、鬼ヶ島には宝じゃなくて囚われのお姫様がいて、それは春ちゃんでどうかな』

「うわー、ぴったり」

「桃太郎は祐希でどうかな」

『やる気ない桃太郎来た』

「何言ってんの。オレが今までどれだけの民を救ってきたと思ってるの名前は」

『ゲーム内でたくさん』

「猿と雉と犬、おじいさんとおばあさんも決めなくちゃね」

「猿は千鶴で決定だよね」

『それじゃあ――…』


広がっていく劇の話。そして三人は身近な人間で桃太郎の話を作り出した


――…


むかしむかしあるところにおじいさんとおばあさんが住んでいました。おじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんは川へ洗濯に行きました。


「全くこーちゃんは自分の服も洗濯できないなんて本当に駄目なんだから」


おばあさんがおじいさんの文句を言いながら洗濯をしていると、どんぶらこっこ、どんぶらこっこと大きな桃が流れてきました。おばあさんは桃を見ると、洗濯物を放り出して桃を捕まえました


「今日のご飯はこの桃で決まりだね!」


おばあさんは桃を抱えると、すぐさま家に帰りました。洗濯物を放置して。

おばあさんが家に帰って少しするとおじいさんが山から帰ってきました。そしておじいさんは驚きました。包丁を振りかざしたおばあさんが突然飛び出してきたからです


「あ、あきら!何やって…!」


混乱するおじいさんと反対におばあさんは屈託ない笑顔を浮かべて言いました。


「あ、こーちゃんおかえりー。今、拾ってきた桃を切ろうとしてたんだ」


そしたらいきなり扉開いたから吃驚しちゃってさー、あはははと笑うおばあさんにおじいさんは大きなため息を吐きました


「あきら。その桃はもとの場所に戻してきなさい」

「なんでー?」

「そんな大きい桃、怪しすぎる。それに他に持ち主がいるかもしれないだろ」

「あ、大丈夫です。その辺ちゃんとしてきたんで」

「…え?」
「あー!なんか出てきた!」


おじいさんがおばあさんにお説教をしていると、ひょっこりと桃の中から男の子が出てきました。驚くおじいさんと面白がるおばあさん。


「はじめまして。祐希です。鬼ヶ島に眼鏡かけた鬼退治に行ってきます」

「うん!いってらっしゃい!」


祐希、もとい桃太郎はおばあさんに見送られながら鬼ヶ島を目指して歩き始めました。展開が早いとか気にしない。


――中略――


「…ここが鬼ヶ島か」

「そうだよ。」


旅の途中で悠太(犬)千鶴(猿)茉咲(雉)を仲間にした祐希(桃太郎)はやっとこさ鬼ヶ島に辿り着きました


「じゃあ、突撃ー」

「「「おー!」」」


やる気の無さそうな祐希の声を合図に、4人は鬼ヶ島の中へと足を踏み入れました。


「はーはっはは!よく来たな桃太郎とその仲間!」


その先にいたのは、可哀想な要くんがでした。


「帰ろっか」

「うん」

「ちょっと待て!そこの桃太郎と犬!」


要を見た途端いたってフツーに踵を返す双子を要は慌てて呼び止めました。そして名前を呼び、春ちゃんを奥から連れ出させました


「お前らは春を取り返しに来たんだろーが!そのまま帰ったら物語が成り立たねぇだろ!」


そう叫ぶ要の声と現れた春の姿に反応したのは茉咲と千鶴。


「ちょっと要!春ちゃん返してよ!!」

「そーだぞ要っち!春ちゃん返せー!」

「うるせぇよ!」

「「まー、まー落ち着いて」」

要食って掛かりそうな茉咲と千鶴を羽交い締めにしてとめる祐希と悠太に茉咲は叫びます


「何よ!春ちゃんがどうなってもいいって言うの!?」

「違う違う。そこに春いるから」


悠太は否定したあと、要と少し離れたところを指差しました。そこには、談笑する春と名前がいました


「おい名前、お前何してんだよ…」

『私は春ちゃんの味方であって要の召し使いじゃないからここ重要。』

「はぁぁ!?」


キレる要を鼻で笑う名前。その2人を見てこそこそと話始める祐希と悠太。

「聞いた悠太」

「聞いた、聞いた」

「要、名前のこと召し使い扱いしてたんだって」

「うわーサイテー」

「ちげぇから!」


反論する要を気にせずに悠太は春と話す名前のもとへ行くと、すっと手を差し出しました


「帰ろう名前」

『うん!』


そのあと2人は幸せに暮らしましたとさ、めでたしめでたし


――…


「完成」

「いやいやいやいや。なにこの終わり方」

「最高のハッピーエンド」

「桃太郎オレなのに、なんで悠太と名前がくっついて終わりなの?」

「あえての演出だけど…」

「名前はどう思う、…って寝てるんだけど」

「オレたちも寝ようか」

「…そうだね」


名前の両隣に寝転がり目を瞑った2人。3人が見たのはきっとあの話の夢。


真夏の劇ごっこ
(悠太とハッピーエンド?いいね!)

―――

突発ネタ。
20120521

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