放課後パニック


田沼とタキとの帰り道。

やっぱり友人とこうして帰るのは楽しいな、て思う。


「夏目はどうするんだ?」

「んー、そうだな…」


顎に手を当てながら考えてみる

ちなみに今の話題は今度の体育祭で出る種目、についてなのだけれど…

何に出ようか…。田沼こそ何に出るんだ?質問しようと顔を上げたとき、おれたちの少し前を歩く女の子に妖が引っ付いているのが目に入った

妖は小さいもので、つんつんと女の子をつついたり悪戯をしているように見える。

特に害は無さそうに見えるけど、もしかしたらってことがあるかもしれない


「夏目君、どうかしたの?」

「え、あぁ、いや…」


妖に意識が完全に持っていかれていたようで、いきなり黙ったらしいおれを田沼とタキが不思議そうな顔で見ている


「少し前に女の子がいるだろう?」

「あぁ、いるな」

「その子に小さい妖が悪戯をしているんだ」

「そうなの?」


ニャンコ先生はいないし…、どうしようか

そんなことを考えようとしたとき、小さかった妖がその体に見合わないほど口を大きく開いた

鋭い牙の生えたそこで彼女の頭を飲み込もうとしているらしい


「タキ!ごめん、荷物!!」

「え、ちょっと夏目君!?」

荷物をタキに託して女の子に向かって走り出す、そして間一髪のところで妖を彼女から引き剥がした。…殴って

キー、と叫び声をあげて逃げていくところを見るとやはり力の弱い妖だったらしい。女の子にも怪我は無さそうだ。

ほっと、息を吐けたのも束の間。女の子は不思議そうにおれを見つめていた

そうだ、彼女には妖は見えていないんだ。

彼女からすれば知らない男がいきなり肩すれすれのところを殴ってきたようにしか思えないだろう

…どうしよう、これは非常にまずい状況だ

言い訳できるのだろうか、この状況で


「あの、どうかしましたか…?」


恐る恐る、と言った風に話しかけてくる彼女。ど、どうしようか…


「いや、そのむ、虫!そう虫がついてたんだ!!」

「虫、ですか…?」

「そ、そう…虫!」

「…そういえばなんかつついかれてたような気がします」

「そうだったんだ…」

「ありがとうございました。」


ぺこっと頭を下げて、彼女は笑った

よ、よかった何とか誤魔化せたみたいだ…




女の子が少し遠くに行ってすぐ、田沼とタキが来た


「大丈夫だったか夏目!?」

「あ、あぁ…なんとか誤魔化せたよ」

「よかったね、夏目君」

「あぁ」


じゃあ、おれたちも帰ろうか。そう言おうとしたとき。前を歩いていた筈の女の子がこちらに走ってきているのが見えた。…なんでだろう

しかも何かを叫んでいるみたいた


「やだ、なんで鞄飛んでるの!?」


…鞄?
すっと視線を落とすと先程の妖が女の子のものであろう鞄を持って走ってきている

あの妖何やってんだ…!

しかも妖は鞄を持ったまま道端にあった木に登った。そして追い付いてきた彼女で遊ぶそうに鞄を持ち上げたり下げたりしている


「…田沼、タキいいか」

「あぁ」「うん」


まずはタキが女の子のところに向かう。男より同じ女の子の方が話しやすいだろうしな


「どうかしたの?」

「あ、あの鞄が飛んでちゃって…」


女の子の視線が外れた間におれが妖を殴って田沼が鞄をキャッチ。よし、完璧だ


「ほら、これ」

「ありがとう」

「よかったね」


女の子は田沼から鞄を受けとると嬉しそうに笑う。だけれど不思議そうな声色で呟いた


「どうして鞄ちゃんと持っていた筈なのに、飛ばされたんでしょうか…」


教科書とかも入っていて重いのに…、その台詞におれたちの体がビクッと震えたのは言うまでも無いだろう。

妖を知らないような子に「それはね妖仕業なんだ」なんて言えるわけがない

さっきの虫より言い訳が難しい、どうするか…

田沼とタキを見てみるけれど、2人とも困り顔

な、なにか言い訳を考えろ、おれ…!


「あ、あれじゃないかな!ここら辺って魔法使いが住んでたらしいの!だから、その…」


頑張って話始めたタキ。いやでも魔法使いって何だよ。有り得ないだろ


「そ、そうなんだよな!おれも聞いたことあるぞそれ!」


な、夏目?と田沼はおれにふってきた。ここは仕方ない…!


「お、おれも聞いたことあるよ」

「…私、小さい頃からここに住んでいるんですけど、魔法使いの話を聞いたのは初めてです」


…どうしよう。嘘だってバレバレだよこれ

うわぁぁぁ、やらかした…と心の中で叫ぶおれたちを知ってか知らずか彼女は気を使ってくれたようで


「あ、でもそういうことってありますよね。私知らないこといっぱいあるし…」


だから、その…。と曖昧に苦笑いを浮かべる彼女。


「そ、そうよね!私だって魔法使いの話今、初めて知ったもの!」

「…え?」

「「え」」

「…あ」


おい、タキ!普通に自分でばらしてどうするんだよ!誤魔化しづらくなったぞ確実に。視線でそう訴えかければごめん、とタキは両手を合わせた


「…じゃあ、さっきのって…」


考え込み始めた彼女。
いや、これは止めなくちゃ


「あの、さっきのは冗談で本当はな、マジックだったんだよ今の」

「マジック、ですか…?」

「そうそう!」


あぁ、誤魔化すのはしばらく時間がかかりそうだ…


―放課後パニック

(もうどうしようもないパニック状態)



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