あの夢の続き



彼女の姿を見つける度に思い出す。あの日のこと。

もし、あの時君を止めていれば――…

後悔が押し寄せてボクを押し潰す。

ねぇ、名前。

君はボクのこと――


――…



『ぷっ、卍里…大丈夫?』
「笑うな!そして大丈夫だ!」


ぎゃいぎゃいと楽しそうに庭でじゃれあう名前と渡狸。ボクはそれを遠くから静かに見ている

転生後、二人の前世の記憶は残っていなかった。下手に思い出させるようなことをするのは御法度だから、ボクは直接的に関わらないで見るだけにしている

(名前、相変わらず本当に楽しそうに笑うんだから…)

ずきり、と鋭く突き刺さる胸の痛みは気付かないフリをする。そうでもしないと耐えられないから。思い出してほしいと願ってしまうから


「残夏、こんなところで何をしている?覗きか?悦いぞ悦いぞ」
「…蜻たん」


後ろから突然現れた蜻たんに少しだけ驚く。いつもならすぐ気付くのに…。二人の観察に集中しすぎてたみたいだね


「なんだ残夏。名前のことを見ていたのか」
「…」


否定も肯定もすることなくボクは紅茶に手を伸ばすと、それを喉に流し込んだ。吐き出してしまいそうな思いとともに


「そんなに好きなら行ってくればいいだろう。そして言えばいい。"思い出せ"と。」
「…そんなのできるわけないよ」


記憶を戻すということは凄まじい量の情報が一気に流れ込んでくるということ。普通ならパンクして倒れる。名前が倒れさせるなんてとてもじゃないけどできない。それに下手したら精神がやられかねない

そんなボクの心配を蜻たんは意図も容易く一蹴した


「名前なら大丈夫だ。そんなに柔な奴ではないことくらい私より貴様の方がよく知っているだろう」

「でもさ、蜻たん」
「貴様は逃げているだけだろう」
「!」


蜻たんの言葉に思わず目を見開く。冷たい汗が背中を伝っていった


「貴様はあの日の後悔とやらに縛られて、名前と向き合おうせず逃げているだけだ」
「――っ」


まるで心の中を覗かれたような気分になった。いつもは自分がするほうなのに


「さっさとぶつかって砕けてくればよい」
「ふふ、ひどいな〜。蜻たん」


ボクは座っていた椅子から立ち上がると、名前の元へと足を動かした

ボクは思い出してもらいたいから、名前に、ボクのことを

渡狸とじゃれる君に手を伸ばす。


「――はじめまして。ボクの名前は――…」


あの夢の続き


(あの日と違う夢を見よう)

20120709

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