君だから
『相馬さん!』
―ほら、君が笑うから俺は頑張れる
***
「おはようございまーす。」
裏口のドアを開けて、中に入る
途端に振り返る、皆。
…どうしたんだろう?
皆どこかそわそわとして落ち着きが無いように見える。
「皆、どうしたの?」
いつもの微笑みを浮かべて、話しかければ皆がびくっ、と肩を揺らす
まぁ、店長と佐藤君を除いて、なんだけどね
「あの、名前さん見ませんでしたか…?」
恐る恐る、と言った感じで小鳥遊君がやっとこさ口を開いた
…それよりも、今名前って言ったよね?
「名前が、どうしたの?」
ほそーく、目を開いて皆を見つめる
名前を見なかったかって、どういう意味なのかなぁ?ってさ
「…帰ってこないんだよ。名前」
「…えっ?」
ぐしゃりと、灰皿に押し付けられた煙草から白い煙がゆらゆらしながら上がっていく。
自分の耳を疑った。
名前が帰ってこない…?
「探しに行ってくるね」
頭よりも体が先に動いた。
あの子は、ぼへっとしてるから何かあってもおかしくない。
早く、探しに行かなくちゃ―!
ドアの方に向き直し、一歩踏み出したときだった
「相馬さーん!」
のんびりと俺を呼ぶ声が聞こえた。
思わず足を止める。…あれ、空耳?
「相馬さん、どこ行くんですか?来たばっかりなのに」
「…」
ま さ か。
ゆっくりと振り返ってみれば思った通り。
笑顔の名前が立っていた
「ちょっとばかし相馬さんを驚かせてみようと考えまして!」
えへ、と笑うその笑顔に力が抜ける感じがした
「名前の馬鹿」
「?ごめんなさいっ」
謝る気をまるで感じさせないへらへら笑顔の名前。
お仕置きをでこぴんだけで済ませてしまう俺は、この子にはどうしても甘いらしい
―君だから
(悪戯くらい許せます)
相馬くん、が別の方←
20120125
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