荷物持ちのち､病
「…重い」
先生に頼まれたノートを持って、教室に向かって歩く。
クラス全員分だけどお前ならいけるよ！…なんて言いやがってあの野郎
私女子なんですけど!?か弱き可憐な乙女なんですけど!?
ノーと言えない。これだめね。
「…、んー！」
力を入れて頑張ってはみるものの、ノートの重さであっちにふらふら、こっちにふらふら…
誰かー、助けてえ…
「大丈夫か？名字」
「…はい？」
ふっと軽くなった手の上にはあったはずのノートが一冊も無くなっていた
ちら、と視界を掠めたノートの先を辿ればそこには夏目くんがいた
…あの量のノートを持てるなんてなかなかたくましいじゃないか、夏目くん
女の子みたいだな、とか思っててごめんね！
「名字、すっごくふらふらしてて何だか面白かったぞ？」
「本当に!?」
うわー、普通に恥ずかしい…
夏目くんはそんな私の気持ちを知ってか知らずか、笑顔のままで話す
「これ、どこに持っていけばいいんだ？教室？」
「うん、そうそう、教室ー」
「じゃ、行こうか」
「うん」
そのままノートを持って歩き出す夏目くん…、っておい。ちょっと待て
「夏目くん、ノート私が持ってくから大丈夫だよ？」
「あんなにふらふらしてたのに教室まで無事に持っていけるのか？」
「…ぐっ、」
言い返す言葉がない。
自分でもこのままだと転ぶだろうなー、とか考えてたから
「おれが持ってくから任せてよ」
「じゃ、じゃあ半分だけでも持つ!!」
半分なら転ばないよ、ほら、どうですか!?夏目くんの服の裾を掴みながら半ばすがるように言う
自分が頼まれたことをそっくり他の人に任せちゃうなんて、なんだか悪い気がするし…
「駄目」
が、しかし。それはあっさりと断られた。
「…どうしても何かを持ってたいなら、そうやっておれの服の裾を掴んでたらいいよ」
ちょっとだけ悪戯気に笑う夏目くん。
そんな表情初めて見たから、思わずどきりとした
「ほら、早く行こう名字」
「…はい」
ばっくん、ばっくん煩く鳴り始める鼓動の音。
初めて見てしまった夏目くんのその表情がそのまま頭から離れなくなってしまった
「名字、可愛い」
「！」
そしてほら、またその笑顔。
さっきよりも激しく脈打つ心臓。…あぁ、なんだか良くない病気にかかってしまったのかもしれない…
―荷物持ちのち、病
(ばくばく、鳴り響く不整脈)
20120303
なんだこれ夏目かこれ誰だ
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