僕の前では許さない



「ねぇ、臨也さん。」

「なに?」


高い、高いビルの上。
たたずむ黒髪の男と少女。

少女は夜の暗い空に手を伸ばしながら、それは綺麗に微笑んだ

その笑みはいやに大人びた笑みだった


「私が今ここから飛び降りるって言ったらどうする?」

「別に、どうもしないよ」


男は少女に目を向けることなく、淡々と答える


「生憎俺は自分が大嫌いな奴が自殺しようとしてるのを止めるほど大人じゃないんだ」

「…知ってるよ」


少女は笑ったまま、一歩を踏み出す。

あともう一歩踏み出してしまえば彼女は落ちる。街の底知れぬ闇の中に


「ふふ、さよならとでも言っておくよ」


少女は男に振り返り、悪戯気に微笑んだ。男はなんの反応も見せなかった

ぶわぁ、と下から這い上がってくる風が少女の艶やかな髪を揺らす

街から聞こえる、妖精の嘶き。それを合図とするように少女は一歩を踏み出した。


「―でもね、目の前で死なれるのも目覚めが悪いと思うんだ」

「―知らないよ、そんなの…」


少女は死ぬことを許されなかった。

無表情で彼女を見つめる男が落ちる寸前に少女の腕を掴んだから


「どこで死んでも構わないけど、俺の前では止めてよね」


昔、君を愛してたときの俺が可笑しくなるからさ

男はそっと少女に口付けた。


―僕の前では許さない

(愛しさを忘れられない)

20120301
歳の差にふれてはいけません。

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