第十一話・孤島に潜んだ敵・





「竜・・・かぁ・・・」
「・・・竜・・・ですか」
「・・・そうらしい」

シュネィヴァが張り上げた声に、慌てて稽古を中断してきたマリカとチィリカが訝しげな表情で呟き合う。
シュネィヴァも二人と同じように呻いた。


三人は今バンエルティア号のホールでリーツ、ホグ、爽(さや)が科学室で彼等が見たという竜の特徴から、その正体が判明するのを待っているところだ。


「こんな辺鄙な島に竜なんてでかいもんが住んでるとはな・・・仕事として話が来るわけだ」


大きく溜め息を吐き、これからやらねばならぬ作業を思い浮かべ、シュネィヴァは肩を落とす。
その動作でシュネィヴァに課せられた仕事を思い出したマリカが気の毒そうな顔になった。


「そっか・・・一緒に討伐もしなきゃなんないんだもんね」
「そうなんだよ・・・気が滅入るぜ・・・」

なにせ相手は竜らしいからな、と付け足すと不安気な表情のチィリカがおずおずと手を上げる。

「・・・あの、私でよければ・・・少しでも力添え、します」


ぎゅうと愛用の杖を握り締め、手伝い意思を示してくれるチィリカの気持ちに心が暖かくなる。


「ありがとうチィリカ。手強そうな時は頼むよ。
だけど、無理はしないでくれよ?」
「・・・はい!」


体を強張らせながらも、表情を柔らかくし頷くチィリカの姿にふっと、頬が緩む。



「・・・・・・仲がよろしいのですのね」

すると、それを横で見ていたマリカが拗ねた声を出すので、シュネィヴァは微笑みから打って変わって、意地悪そうな笑みを浮かべる。


「マリカ、友人がとられたからって嫉妬は感心しないぞ?」

「・・・嫉妬?」

「ふーんだ!羨ましくないもーん!だってチィリカは大事な友達だから!誰かと話してたって最後にはわたしのとこ来てくれるもん!」
「果たしてそうかな?それに友達って言えば俺も含まれると思うぞ?」
「へーん!シュネィヴァなんて青い青い!それにわたしが一番チィリカのこと大好きだもん!」
「ほう?どうだろうな・・・もしもここで俺がチィリカを好きだと言ったら?」
「なんだっ・・・「ちょっと待ってください!
い・・・今二人とも、すごく・・・恥ずかしいことを言ってませんか?!」

「何だ、今気づいたのか?」
「あれ、今気づいたの?」

「・・・!!・・・はぅ」


息のあった二人の攻撃に、慣れないチィリカは顔を赤くし、顔を伏せた。


「チィリカは初々しいなぁ、そのままじゃ相手にならないぞ?」
「ふへへ〜!ジャンケンでは負けても、口じゃまだまだ負けないよ!」
「ここでジャンケンを持ち出すのかお前は・・・」

「・・・う・・・そ、れにしても・・・、本当に二人は息ピッタリですね・・・」


ふんぞり返るマリカと呆れるシュネィヴァを見て、今だ赤面しているチィリカが「仲良し」と称する。


「ま〜、かれこれ三年の付き合いだしね!以心伝心って感じだよ!」
「そうか?」


自信満々に答えるマリカの隣で、シュネィヴァが首をかしげる。


その動作すら二人には自然で、チィリカはそんな二人の関係を羨ましい気持ちで眺めた。




「お〜い、お三方!敵の正体が分かったぞ〜」


扉の開く音と共に、レクが顔を覗かせ、科学室に入るよう手招きをする。
それに従い、科学室に足を踏み入れると、中にいたキルが振り向く。


「エステルが持ってる絵つきのモンスター図鑑にいたってさ〜。間違いはなさそうだよ」

そして桃色の髪の白い服を着た少女が三人の傍に寄り、一冊の大きな本を開く。


「シュネィヴァさんの船の方に確認しました。このモンスターで間違いはないと思います」

「どれどれ・・・」


開かれたページに描かれたモンスターの姿は、目撃者が称した「竜」の例え通り、屈強な顎と牙を持っている。

手は小さいが、菫色の大きな身体を支えるのには十分な程逞しい足。
長く大きな尻尾や背には棘のような突起がびっしりと生えている。


ページの上部にある、モンスターの名前の部分には「ケイブレックス」と書かれていた。

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